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そこにいる理由

 …ふと、視界に違和感を感じた。 

 赤信号の向こう側、住宅と住宅の間にあるフェンスの前に、見慣れないものがあったのだ。

 道端に……、靴が、落ちている。

 少し離れた位置から望んでいるので、はっきりとは確認できないが、おそらく、男物の、ハイカットスニーカー。

 なんであんなところに?

 …干している?

 そのわりには、日当たりが悪いような。

 …置いていった?

 そのわりには、無造作に放置してあるような。

 …忘れていった?

 そのわりには、人の立ち寄りそうな気配がない。

 …捨てて行った?

 そのわりには、きちんと揃えられている。

 …もしかしてなんかのオブジェ?

 こんな片田舎の誰も通らないような場所で?

 スニーカーがあの場にたたずんでいる理由を探していたら……、信号が変わった。

 一歩、二歩、三歩……。

 スニーカーに、近づいていく。

 四歩、五歩、六歩……。

 スニーカーが、近くなる。

 七歩、八歩、九歩……。

 スニーカーを、近くで望む。

 信号を渡りきり、スニーカーと、すれ違う。

 …わりと、新しいな。

 右の靴紐がほどけている、少々ガニ股、靴底は厚めで、つま先が少し赤土で汚れている、ブラックカラーなのにタンの部分がオレンジ色なのか…スリムタイプのジーパンにわりとよく映えるな……って。

 ……なんだ、履いてるのか。

 私は、スニーカーから目を逸らさずに下を向いたまま…、半透明な人の横を通り過ぎたのだった。

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