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すんなり渡らせてもらえない信号

 最近、必ず、信号で立ち止まっている。

 信号を渡ろうとすると、いつも赤。
 信号を渡ろうとすると、いつも点滅しはじめて進めない。
 信号を渡ろうとすると、いつも何かに邪魔をされる。

 信号に差し掛かるたびに、いつも足止めされてしまう。

 青信号だなと思って歩いていくと、横断歩道に到着する手前で信号が滅し始める。
 信号が点滅しているなと思って歩いていくと、横断歩道に到着すると同時に赤信号になる。
 赤信号だなと思って歩いていくと、横断歩道にさしかかった時に青信号になり、よし渡るぞと思った瞬間にスマホが鳴る。
 ちょうど青信号で渡れそうだと思えば、横の方から救急車のサイレンが聞こえてきて立ち止まらざるを得ない。

 気が付いたのは…いつの頃だっただろうか。
 もうずいぶん、長い間…俺は赤信号に憑りつかれている。

 まっすぐ進もうが、曲がろうが、必ず進行方向が赤信号に変わるのだ。
 ご丁寧に、進まない方向だった場合は信号は青色のままなのだ。
 青色信号を渡ろうとすると、なぜか進行を妨げるような事件が起きるのだ。

 信号がある交差点に来るたび、毎回毎回…点滅する歩行者信号を見つめる事になる。
 信号がある交差点に来るたび、毎回毎回…赤い歩行者信号をじっと見つめる事になる。
 信号がある交差点に来るたび、毎回毎回…青色の信号を見ながら赤に変わるまで見つめる事になる。

 信号のある場所で、絶対に立ち止まることになってしまうのだ。

 どう考えても、おかしい。
 明らかに、不自然だ。

 まるで、プログラムでもされているかのような、この、おかしな……偶然。

 もしかしたら、何らかの大きな力が働いているのではないか?
 もしかしたら、何らかの大きな力に弄ばれているのではないか?

 突拍子もない事を疑ってしまうほどに、俺は追い込まれている。

 小さな不運が続くと、テンションが上がらない。
 地味に信号待ちのロスが蓄積されて、時間に追われる。
 クソ忌々しい日差しやゲリラ豪雨が重なると、ムカッ腹も最高潮になる。

 こうなったら、……不意をついてみるか。

 俺は、得体のしれないものに振り回されたくなどないのだ。
 俺は、不愉快な偶然をほったらかしにしておくことはできないのだ。

 俺は得体のしれないものなんかに負けねえぞという気概を見せ付けてやらねばなるまい。
 俺は不愉快な偶然を浴びせられて黙ってるような軟弱ものじゃないんだぜという本気を見せ付けてやらねばなるまい。

 ……ちょうど、進行方向の信号が青色だ。

 おそらく、このまま真っ直ぐに歩いて行けば、信号は点滅するだろう。
 そして、いつものように、長い信号待ちをすることになるのだ。

 気持ち、進む速度を緩やかにして…立ち止まることを受け入れる、ふりをする。

 いつものように、ぼんやりと流されている演技をする。
 いつものように、何も考えずに突っ立つことに何も疑問を持っていない演技をする。

 進行方向の信号が点滅し…赤色に変わった。
 いつもなら…横断歩道の手前で大人しく佇むことになるわけだが。

 まっすぐ進むと見せかけて…、ここはいったん右折だ!!

 いつもならばもう一つ先の信号で右折するのだが、今この交差点で右に渡っておいても問題はない。
 いつも通る道を歩き続けなければいけないという規則など、どこにもないのだ。

 俺はキレ良く方向転換をし!!
 青色信号の点る、横断歩道へと勢いよく踏み出し!!!

 なんだ、こうすれば立ち止まらずに青色信号が渡れるのか。
 もっと早くこうしていればよかったよ。
 無駄にイライラして損したじゃないか。

 そんなことを思いながら、足取りも軽く歩みを進めた、俺の耳に聞こえてきたのは。

 キィイイイイイイイイイいっ!!

 きゅ、きゅキュキュキ‥‥‥!!!!

 ドガッシャぁああああアアアアアアア……

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たかさば
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