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俺、生まれ変わったら【絵画】になっていたわけなのだが…

……俺は、絵画。
M20号のキャンバスに油絵の具で描かれた、現代アーティストの作品だ。

昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、目立たない男だった。

何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。

「生まれ変わったら、注目を浴びる絵画になりたい」

そう願ったのには、理由(わけ)がある。

誰にも絶賛されることのない人生を送ったので、せめて見た目だけでもため息が出るほど美しい存在になりたいと思ったのだ。

顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…美しい絵を見て感動の涙を流した事だけは忘れられなかった。
自分もただ存在するだけで人々に感動を与えられるようになりたいと憧れた事と、たがが絵の癖に人の感情を動かすなんて烏滸(おこがま)しいと憤慨した事だけが、いつまでも心に残っていた。

願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。

だが、しかし。

―――帰ってください、僕はこの絵を…発表する気はない

俺を描いたのは、自分に厳しい芸術家だった。

俺は願った。

「一刻も早く、生まれ変わりたい」

そう願ってしまうのは、当然である。

芸術家は、筆が進まないと言っては筆を持つ手をおき、いつまでたっても俺という作品を完成させてはくれなくて…我慢がならなかった。
未完成なのに感嘆の声を浴び、連日取材を受けて注目を集めているのに、芸術家は苦い顔をして人々をアトリエから追い出し…地獄でしかない。

恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。


……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?

―――これは完成することのない作品であり、未完成の状態で発表すべきだ

学生時代に世話になった教授が、芸術家の元を訪れて叱咤激励をした。
俺という作品に手を拱いて、他に作品を生み出さなくなってしまったため…はっぱをかけにきたのだ。

俺は願った。

「完成したことにして世間に公開してくれ!」

そう願ったのには、理由があった。

未完成ではあるが…、俺はすでに見るものに感動を与え、多くの人から絶賛を受け、涙を呼んでいたからだ。
他の人が見ればすで絵に芸術作品として完成しているのに、その作者だけが頑なに未完成であるとごね続けているのだ。

たかが一ミリの水色の絵の具の置き方が気に食わなかっただけで…何日も筆を手にする事すらしなくなり、なぜ周りの人の言葉を聞き入れないのかという思いがあふれて、心をえぐり続ける。

……とりあえず俺はこれで完成、それでいいじゃないか

―――クソッ!!こんな…こんなものっ!!!

芸術家は、俺の表面に筆洗油をぶちまけた。
まだ乾いていない油絵の具が溶け出し、未完成の作品が崩れてゆく。

俺の願いも…むなしく。

ただただ無表情で、芸術家は愛用のペインティングナイフを俺に突き立てている。
キャンバスにはいくつも穴が開き、破れた部分から乾いた絵の具がパラパラと散って、へし曲がった木枠に美しい色彩の欠片が落ちてゆく。

ああ、次に・・・生まれ変わったならば。

おれは・・・

・・・


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たかさば
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