食欲の秋だというのに
ああ……体調が、思わしくない。 いつも三杯はお替りする社食のどんぶりめしなのに、二杯しか食べられない。
いつも5回は取りに行くデザートバーなのに、一皿で満足してしまう。
いつも余ったおやつを根こそぎもらって全部就業中に食べきっていたのに、おすそ分けする日が来ようとは。
食い物が一番ウマイ時期だというのに、食うもの食うもの…食欲をそそらないというか、テンションが上がって来ないというか……。
大好物の、月見バーガーも、なんだか感動がないし。
大好物の、秋物のスナック菓子の買い出しも行ってないし。
大好物の、栗きんとんものどを通るスピードが遅いし。
大好物の、梨もまだ買いに行ってないし。
大好物の、秋茄子麻婆がやたらと胸焼けするし。
大好物の、かぼちゃのほうとうも食いに行ってないし。
大好物の、サンマの塩焼き弁当がやけに重いと感じるし。
……寄る年波には勝てないという事か。
食欲の秋だというのに、もったいない事だ。
食欲の秋こそ、食い倒れてなんぼだろう…。
ああ……、食べることだけが生きがいだったのに。
こんなにも、晩飯がスッキリと食べられない日がやって来ようとは。
こんなにも、食べきるのに時間がかかるようになろうとは。
ああ……、こんなことなら、もっと秋の味覚をたらふく食べておけば良かった。
来年また食べるしと、妥協してはならなかった。
ハラが裂けるまで、食っておかねばならなかった。
秋の味覚の美味い期間など、あっという間に過ぎ去ってしまうというのに。
まさかおのれの身体が、美味いものを受け入れない日がやって来ようとは。
……嘆いても、食欲旺盛だった頃の自分は、もう…戻っては、来ない。
俺は、テーブルの上に散らかるハンバーガー屋の袋と和菓子屋の化粧箱とスーパーのお惣菜のパックに弁当屋の二段パックをつぶして、手早くゴミ箱の中に押し込み。
明日の朝6:00の、焼き立てパン屋のモーニングバイキングに遅刻せぬよう……、歯も磨かずにソファにダイブしたのだった。
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