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噛み癖

「もう!爪を噛んじゃダメって言ったでしょ!!大切な歯が欠けたらどうするの!」
「ご、ごめんなさい……。」

幼い頃、毎日のように怒られていた、私。

気が付くといつも…爪を噛んでいた。

端の方から少しづつ、切断面を広げていくように噛むのが好きだった。
爪の端を潰すように、少しづつ丁寧に噛むのが好きだった。
爪の周りの固い皮の部分を、尖らせるように何度も噛むのが好きだった。

大きな前歯で、かじったり。
前歯だけ使うのは良くないと、他の歯でもかじったり。
歯の抜け変わる時期でさえ、残っている歯で爪を噛んだ。

何度叱っても爪を噛むことをやめない私を見て、ママがキレてしまったのは…小学校に入学する頃だった。

「わあー!きれいなつめ!」
「きれいでしょう?噛むとはげちゃうからね、もう爪をかじらないようにしようね!」

ぼろぼろの爪に塗られた、色鮮やかなマニキュアに心が躍った。
ずっと見つめていたいような、キラキラと輝く、指先だった。

けれど、私の爪を噛みたい欲求は、その美しさを破壊する事を望んだ。

「……ペッ、ぺっぺっ!!!に、にぎゃい、まずっ…おえっ……!!!」

いつものように爪を噛んだ私は、信じられない不快感に、洗面所へ駆け込んだ。何度も、何度も口をゆすいでいると、ママが勝ち誇ったような顔をしてこちらにやってきた。

「さきちゃんの指に毒が塗ってあるの!今度噛んだら、歯が全部抜けちゃうかもよ……?」
「ああーん!!ヤダ、やだよぅ……!!!」

どうやら、爪を噛む癖のある子供用に作られたマニキュアだったらしい。

なめると非常に苦みを感じる代物だった。
その苦さが、毒というリアリティーを感じさせた。

次に爪を噛んだらやばいという焦りが、私の爪を噛みたい衝動を完ぺきに抑え込んだ。

「うん、やっときれいな爪が生えそろったね!もう絶対噛んじゃダメだよ!色は抜けちゃったけど、まだ毒が染み込んでるからね?」
「わかった・・・・・・。」

……私は爪を噛むのを、やめることができたのだが。

…はみ、はみ……。
…がぶ、がぶ……。

代わりに、甘噛みをする癖がついてしまった。

指の第二関節あたりを、前歯四本で、軽く挟み込んで…甘噛みする。

…はみ、はみ……。
…がぶ、がぶ……。

手のひらで口を覆うふりをして、指の腹を…甘噛みする。

…はみ、はみ……。
…がぶ、がぶ……。

頬杖をつくふりをして、手の平の肉を…甘噛みする。


ずいぶん長い間…私は自分の体を、甘噛みし続けていたのだけれど。


「ね、ハル君の指、噛んでも…良い?」

いつしか、自分の指や手だけではなく、恋人の指も噛むようになっていた。

「…なに、俺の指は、そんなに噛みがい、あるの?」
「……うん。」

うっとりと指を甘噛みする私を見て…彼氏もまた、私を、甘噛み、した。

噛んで、噛まれて。
噛んで、噛まれて。

彼氏から与えられる、甘噛みの心地良さに、震えた。

ますます私の嚙みたい熱が上がって…我慢ができなくなった。
ますます私の歯が…噛んでもいい部分を求めて暴走した。

指先、大きな手、凛々しい腕、艶やかな首筋…、欲望の赴くままに、私は甘噛みを堪能し続けた。

甘噛みさせてくれる彼氏は、何人も、できた。

……みんな、とっても、優しかった。

ついつい、歯型をつけてしまった時も、許してくれた。
ついつい、強く噛んでしまった時も、泣きながら許してくれた。
ついつい、手加減できなかった時も、黙って見逃してくれた。

……みんな、ホントに、大好き。

彼氏を噛むとか、みっともないよね?
……甘噛みせずにいられない、我慢のできない私で、ごめんね?

私の我儘を叶えてくれる彼氏には、感謝の念しか浮かばない。


「ね…噛んでも、いーい?」

…はみ、はみ……。
…がぶ、がぶ……。

「ふふ……だーい好き……♡」

…がじ、がじ……。

…バリ、バリ……。

「ありがとう♡」

…ボリ、ボリ……。
…めき、めき……。

「ずっと、忘れないからね♡」

…ゴリ、ゴリ……。

「ばいばい♡」

……ごっくん。


今回の彼氏も、美味しかった。

次は、誰に、しようかな……?


私は、新しい彼氏を見つけるために。

繁華街へと、繰り出した。


アアア、すぐ食っちゃう病が発動してしまった…orz


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たかさば
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