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逆詐欺

 友達に誘われて、人気のカフェに行くことになった。

 ややモダンで、それでいて明るい木目調がオシャンな、地元民で賑わう店内。

「いらっしゃませ!二名様ですね!こちらのお席にどうぞ~!」

 ニコニコとした店員さんに窓際の席に案内されて、ベロアのソファに腰を降ろしたら…、分厚いメニュー表を差し出された。
 使い込まれた綻びが目立つ表紙をそっと開くと、ドリンク、軽食、ランチセット、ボリューム満点のメニュー、デザート……おいしそうなモノがずらりと並んでいる。

 私はあまり外食をしないタイプなので、どのメニューを選んだらいいのか…少し悩む。

「私はピザトーストとクリームソーダにしようかな」

 友人は、軽食メニューとドリンクを注文するようだ。

 ソフトクリームの乗ったフロートだけ頼もうかなと思っていたけれど……私も同じようなものを頼んだ方がいいだろう。先にドリンクを飲み終わってしまっては申し訳ないし、せっかく来たのだから美味しそうなメニューも食べておきたい。
 時刻は11:10…まだ少しお昼には早い時間帯だし、ガッツリ食べる気にはなれない。お残しをするのは嫌なので、食べ切れそうな小さなバラエティセットを頼むことにした。

「じゃあ…私はミニコメバスケットとアイスココアにしようかな」


 ……待つこと、十分。

「おまたせしました~!」

 注文した品が、運ばれてきた。

「……って、え?!は、ハイ?!」

 想像以上のボリュームに、思わず…おかしな声が、出てしまった。

 明らかにデカい、どう見てもミニじゃない、迫力満点のサンドイッチとからあげが二つずつ入ったバスケット。
 アイスココアの常識を吹き飛ばす、飲み物あるまじき高さでそびえ立つソフトクリームタワー。

 腹ペコであったとしても、食べきることができるかどうか微妙なレベルだ。

「ふふ!!ここはねえ、逆詐欺で有名なの!」

 モリモリと大ぶりなピザトーストをかじる、友人の目が…笑っている。
 ……どうやら私は、ハメられたらしい。

 このところ、巷では逆詐欺なるものがブーム?になっているようだ。

 こちらの予想したものをはるかに超えてくる、カフェの心意気。
 メニュー写真が控えめすぎるのか、はたまたキッチンスタッフのサービスがすごいのか。

 とけるソフトクリームに苦戦しながら、分厚いサンドイッチとゲンコツみたいな唐揚げを二つ…がんばって、完食、したのだが。
 ……気のせいか、罰ゲームを受けてでもいるかのような、げっそり感が。

「どお!かなり幸せな気分になれたでしょ!」

「う、うん……」

 満足そうに目を細めた食いしん坊な友人を見て、私は学びを得たのだ。

 一つ、つられてメニューを選んではならない。
 一つ、カフェのメニューは疑ってかかる事。
 一つ、誰かの幸せは、自分にとって苦になる場合がある。

 逆詐欺は、私に……良い経験を残してくれたのだ。


 親戚のススメで、お見合いをする事になった。

 写真を見ると、優しそうに微笑む、スーツ姿がよく似合う誠実そうな人だった。

「とりあえず会ってみるだけでも!とってもイイ人よ?」

 パワフルな仲人さんの言葉を流せずに、喫茶店で会う事になった。

 テーブルの上にあったラミネートされただけのシンプルなメニュー表には、ドリンク、軽食、ランチセット、デザート……文字だけがずらりと並んでいる。
 私はこういう時に何を頼んでいいのかわからないので、どのメニューを選んだらいいのか…困ってしまった。

「あ、ここにホット四つね!!」

 仲人さんは、まだ来てもいない人の分まで注文してしまった…。
 私、コーヒー飲めないんだけどな……でも、今さら紅茶にしてくださいとは、言えない。おそらく代金を支払う必要はないと思うけれど、出てきたものは飲み干さねばダメだろう。

 時刻は15:00…間もなく相手方が来る頃、気を取り直して、笑顔を作らなくては。あとで母親にブツブツ言われるのは嫌なので、大人の社交辞令を発動しておくことにした。

「あの、コーヒー代はいつお支払いしたらいいですか」

「そんなの出すわよ!!顔合わせだけしたらあとは二人でデートに行っていいんだからね?」

 ……待つこと、十分。

「おまたせして申し訳ありません!」

 コーヒーの湯気の向こう側に、お見合い相手が、やってきた。

「……って、え?!は、ハイ!!」

 想像以上のボリュームに、思わず…おかしな声が、出てしまった。

 明らかにデカくて、あきらかに小さい、どう見ても178センチ65キロじゃない、迫力満点のおじさんとスーツの年配男性。
 お見合いの常識を吹き飛ばす、ラフないでたちに落ち着きのない動き、なめまわすような視線。

 いくら私が彼氏募集中であったとしても、逃げ出したくなるレベルだ。

「ふふ!!お似合いよぅ、それじゃあ、あとは若い人達同士で仲良くね!!」

 ぺらぺらと耳障りの良い事をしゃべっていた仲人さん達が…笑っている。
 ……どうやら私は、ハメられたらしい。

 そういえば……、逆詐欺がブームだったんだっけ。

 こちらの予想をはるかに超えてきた、縁を結び付けたくてたまらない人々のゴリ押し。

 見合い写真が控えめすぎる…実物に肉がつき過ぎている。
 声が大きすぎる…肩書が盛り過ぎている。

 年齢は控えめにしておいたっておかしいでしょう、そのくせ頭部は誇張しておいたってどういうこと?
 体重を控えるなら身長だって控えるべき、170ある私が見下ろす178センチなんて無理がある。
 どうして年収が将来的な予想金額になっている?釣書きが目標ってどういうこと。

 ……いやいや、もはや別人だろう。

 一方的に押し付けられるコミュニケーションに苦戦しながら、分厚い面の皮に作り笑顔を向けて…がんばって、お断り、したのだが。
 ……どう考えても、罰ゲームだとしか思えなかった。


「どうしてあんないい人、断っちゃうのよ?!」

「は、はは……」

 目を三角にして私に怒鳴りつける母親を見て、私は学びを得たのだ。

 一つ、流されて見合い話を受けてはならない。
 一つ、見合い相手の釣り書きと写真は信じない事。
 一つ、恋愛相手は、一刻も早く自分で見つけるべし。

 逆詐欺は、私に。

 ……旦那と出会う、きっかけをくれたのだ。

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