
……つかまえた。
僕には好きな人がいた。
なんとなく、人と距離を置いているような。
なんとなく、人を怖がっているような。
なんとなく、人に気を使っているような。
ごく普通に過ごしているはずなのに、なぜか目が離せない人。
「あのっ、好き、です…よかったら、付き合ってもらえませんかっ……!」
……思いがけず、告白された。
全くの、寝耳に水状態だった。
僕が一方的に見つめていただけだと思っていたから、驚いた。
「いいよ、よろしくね?」
真奈が、僕の彼女になった。
けれど、違和感がある。
なぜか、違和感がある。
いつも、違和感がある。
「かず君、なぐさめて……。」
「うん、よーしよーし、真奈は悪くない、イイ子、イイ子……。」
僕の知る真奈は、こんな人では、なかったはずだ。
人に甘えるようなタイプではなかったはずだ。
「僕、和食ってあんまり好きじゃないんだ。」
「そっか!私もあんまり好きじゃないの、今度一緒にハンバーグ食べにこようね!」
僕の知る真奈は、こんな人ではなかったはずだ。
人に提案するようなタイプではなかったはずだ。
「うわあ、美味しそう!僕ゆで卵大好きなんだ、もらっていい?」
「ゆで卵、美味しいもんねえ、イイよ、ハイ、アーンして!」
僕の知る真奈は、こんな人ではなかったはずだ。
人に食べ物を分け与えるようなタイプではなかったはずだ。
「ね、すごくいい恋愛ものの映画やってるんだって、ここにしない?」
「うん、私恋愛映画って大好きなの!泣いちゃったら、ごめんね?」
僕の知る真奈は、こんな人ではなかったはずだ。
人の恋愛話に首を突っ込むようなタイプではなかったはずだ。
「ご、ごめん、みっともないよね、男のくせに感動して泣いちゃうとかっ…!!!」
「ううん、私もすっごく感動した、ごめんね、私も、泣いていい?」
僕の知る真奈は、こんな人ではなかったはずだ。
人の感情につられて自分の感情を変えるようなタイプではなかったはずだ。
付き合うほどに、違和感が増していく。
可愛い真奈。
泣き虫の真奈。
子供っぽい真奈。
わがままな真奈。
とぼけた真奈。
無理をしている?
自分を出していない?
距離が広がっている?
僕を怖がっている?
僕に気を使っている?
恋人同士って、もっと…甘いもんじゃ、ないのか?
これじゃ、僕が片思いをしていた頃と変わらない。
人との距離感を保つ真奈、僕との距離感を広げる真奈。
人を怖がる真奈、僕を怖がっている真奈。
人に気を使う真奈、僕に気を遣う真奈。
ただの人と変わらない、恋人であるはずの僕。
不満が増してゆく。
不安が増してゆく。
僕じゃ特別にならない?
僕では特別になれない?
どんどん自分に自信がなくなってゆく。
どんどん知らない感情が増えてゆく。
どうしてこうなった。
どうしてこんなことに。
どうしてなんだ、なにがいけないんだ。
真奈の笑顔が信じられない。
真奈の言葉が信じられない。
真奈の寂しそうな顔を思い出す。
真奈の遠くを見る目を思い出す。
真奈のため息をついていた姿を思い出す。
僕は、真奈が好きだ。
僕は、真奈が好きだった。
僕は、真奈が気になって仕方がなかった。
僕は、真奈に笑ってもらいたいと思った。
僕は、真奈に心を寄せてほしいと思った。
僕は、真奈に頼ってほしいと思った。
僕は、真奈と一緒にいたいと思った。
僕は、真奈と一緒にいられたらいいと思っていた。
真奈といるのに、つぶれてしまいそうだ。
真奈といるのに、不安ばかりが増していく。
……付き合っているはずなのに。
付き合う前の方が、心が満たされていた。
このままではだめだ。
このままではだめなんだ。
このままで終わりたくないんだ。
「かず君、ごめんなさい。」
真奈が、別れを切り出した。
「私、あなたとは、付き合えない。」
真奈が、僕に、別れを告げる。
「短い間だったけど、ありがとう。」
真奈が、僕の前から去ろうとしている。
僕に別れを告げた真奈の顔が、輝いている。
・・・この、表情は。
僕が、いつの間にか好きになっていた、あの頃の……真奈。
なんとなく、人と距離を置いているような。
なんとなく、人を怖がっているような。
なんとなく、人に気を使っているような。
僕に背を向けて、一歩踏み出した、真奈。
僕の好きな、真奈が!
僕の好きだった、真奈が!
真奈が、いなくなるなんて……いやだ!
ぎゅっと、抱きしめた。
僕の大好きな真奈を、ぎゅっと、抱きしめた。
僕の、真奈を。
僕の腕の中で泣く真奈は、僕が好きだった真奈だ。
僕を見上げる真奈は、僕が探していた真奈だ。
僕の胸を叩く真奈は、僕が願った素直な真奈だ。
僕に本音をぶちまける真奈は、僕がずっと求めていた真奈だ。
「僕は、真奈の全部が好きなんだよ?」
ぼろぼろと泣いている、みっともない真奈。
別れたくないと、顔に書いてある真奈。
私を見て欲しいと、すがるような目を向ける真奈。
ようやく自分をさらけ出した、真奈。
「がんばる真奈もいいけど、今日からは…がんばらない真奈が見たいかな?」
僕は、もう…真奈を離したり、しない。
ずっと、待ってた。
ずっと、待っていたんだよ。
ずっと、待ち続けていたんだよ。
「もう、別れるとか、言わないこと。」
ようやく会えた、飾らない、真奈。
……愛おしくて、たまらない。
思わず、隠し持っていた愛があふれて…唇越しに、渡してしまったじゃないか。
僕は、じたばたする真奈を、思いっきり抱きしめた。
……ああ、幸せだ。
……でも、僕は、もっと。
「ね、おなかすかない?僕駅前にできたクロワッサンサンドのお店行きたいな?」
僕が大好きな真奈が、僕の腕のなかにいる。
それだけでうれしくて、つい…困らせたくなってしまう。
「すいてない、クロワッサン、好きじゃない。」
……知ってるよ。
すねる真奈が見たくて、わざと嫌いなものを食べようって誘ってしまったんだから。
「じゃあ、僕だけ食べるから、付き合って!」
強引に手を取り、駆け出した。
真奈と、僕の恋は……今、始まった、ばかり。
という事で、昨日投稿したお話のの彼氏側の話でした(*'ω'*)
ええい、このリア充どもめ…。
両思いで検索したらすげえもんが引っかかってきたので記念にのせとくわ…。
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