恐ろしい物語
……なんだかおかしなものが見える。
さわれない何かが、目の前にいる。
ゆらゆらと揺れる、あいまいな、シルエット。
……なんだおばけかと思って、はっとする。
いるわけないでしょ、こんなに明るい時間なのに。
私は、怖いと思う心を落ち着かせて、目を閉じた。
ゆっくりと…目を、開ける。
……やっぱり、なんだかおかしなものが見える。
明らかに人間ではない形をしたものが、目の前にいる。
ふわふわと浮ぶ、不確かな映像。
……なんだ宇宙人かとおもって、頭を振る。
いるわけないから大丈夫、こんな片田舎に住む、平凡な一般人の家だもの。
私は、ふかーく、呼吸をしてから、目を閉じた。
ゆっくりと…目を、開ける。
……どうみても、やっぱり、なんだかおかしなものが見える。
風もないのに漂いながら、目の前にいる。
右に左に、はっきりとしない何かが、移動している。
……なんだ気のせいかと思って、ため息を一つ、つく。
そんなわけないでしょ、こんなはっきり認識しているのに。
私は、あれこれ考えるのをやめて、パソコンの前に腰を下ろした。
……一体、何がここにいるのかは、わからないが。
せめて、このことを文字に残すくらいの事はしておきたい。
突然の出会い、遭遇して私の中に芽生えた心の騒めき、恐怖を華麗にスルーしながら、己の中にある知識を総動員して考察を重ね、暴走しそうになる感情を押さえなければならない…しかし解放したくてたまらないという葛藤を乗り越え、ごく普通の凡庸な一般人には体験し得ることのない激レア状況を、リアリティ溢れる描写で納得行くまで文字にしたい、しなければならない。
夢中になってキーボードを叩いているうちに、いつの間にか日が落ちていた。
夢中になって文字をつなげているうちに、いつの間にか物語になっていた。
夢中になって文脈を整えているうちに、いつの間にか真夜中になっていた。
……出来上がった物語を読み返していたら、いつの間にか夜が明けようとしていた。
私は、書いた物語を小説サイトに投稿し、自分の物語がモニタに映し出されるのを、確認した。
……きっと、この物語は。
たくさんの人を、震えあがらせる物語に、なるはず。
……現に、今だって。
私の目の前にいる、おかしなものが。
上下に揺れて、跳びはねて。
左右に激しく動いて、震えて。
よくわからない波動が伝わってくる。
よくわからない音が聞こえてくる。
よくわからないけれど、恐怖に怯えているオーラが、確かにこの場にひしめきあっている。
よくわからない者たちをも震え上がらせる、私の……物語。
……書けて、よかった。
私は、満足感に浸りながら、晴れ渡る空の光の中に、混じっていった。