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ちょっと早めに来てというのは、どの程度早く伺えばよろしいのか?

「明日さぁ、ちょっと早めに来てくれない?」

 こんなふうに言われた経験はございませんか。

 様々なシチュエーションで飛び出すであろう、このセリフ。
 ……実にややこしい問題を抱えていると思っているのは、私だけでしょうか。

【ちょっと早め】というのは、いったいどの程度なんですかアアアア!?

 どの程度早く行けば相手方に満足していただける!?
 どの程度早く行けば相手方の機嫌が損なわれない!?
 どの程度早く行けば相手方はツッコミを入れない!?
 どの程度早く行けば相手方が立腹しないで済む!?

 長年正しい答えを導き出せぬまま、毎回毎回…早すぎるだの遅すぎるだの常識はずれだのめんどくさいだのふざけんなだの社畜かよだのババアは朝が早いだの言われ続けて、未だ納得できずにいる私がここに!

 誰か、誰か……模範解答を、プリーズ!!!

 という事で、本日は己のめんどくさい性格とやらかしがちの人生を振り返りつつ自分なりの答らしきものを導き出してみようと思います。よろしければお付き合いください。

 まず前提といたしまして、私はわりと何事においても早めに行動するタイプであることをお伝えしておきます。

 例えば、8:00に待ち合わせる場合…。
 ①7:30には現地入り
 ②待ち合わせ場所付近で待機
 ③7:45に移動を開始
 ④7:50待ち合わせ場所で待機開始
 ※待ち合わせる相手が視界に入ったら即駆け寄る※

 育った家庭がわりとかなり相当時間に厳しく、物心ついた時から待つことが多い感じでした。

 小学校の集団登校の待ち合わせ場所では5分くらい立ちっぱなしだったし、個人登校の中学高校では教室一番乗りが常でしたし、大学では講義が始まる一時間ほど前に到着して教室が開くまで図書館で本を読んでいたりしていました。
 待っている時間を無駄な時間ととらえずにいましたね。その時間であれこれ想像したり(この辺りから妄想にまみれた創作好きが加速した模様)、一日の計画を練ったり、本を読んだり、絵を描いたり…どちらかというと、貴重な時間という認識が強かったです。
 友達などと待ち合わせをする時には遅刻する子もボチボチいましたが、基本私はそういう場合でもぼんやりと待ち続ける事が苦ではなかったので、とくにトラブることもなくのほほんと暮らしていたんです。

 で。

 時は流れまして、私、就職したんですよ。そこで…自分の認識を揺るがすような出来事があったんですよねえ。

 私の就職したのはとある小売店でして、9:00がオープンでした。わりといろいろゆるい店舗だったのでタイムカードはなく、店長でさえ9:00少し前に出勤していました。副店長に至っては9:00に駆け込んできて「セーフセーフ!!」と汗を拭うような感じでした。

 そんな中、私はいつも8:45、電車の乗り換えがうまくいった時には8:30に出勤していました。店のカギは店長と副店長しか持っていなかったので、シャッターの前で立ったまま待つこともわりと多かったんですよ。
 毎日待ち時間は発生するものの、万一電車の遅延に巻き込まれてオープンに間に合わず叱られるよりはマシと思っていました。実際、3年ほど勤めていた間に二度ほど遅延は発生し、徒歩で店舗に向かってギリギリセーフだったこともあるんです。

 職場に慣れてきたころ、店舗でイベントが開かれることになったんですよね。

 とあるタレントさんを呼んで、店内でトークショーをするというものです。確か、イベント開始は11:00だったかな。9:00にオープンして、10:00にタレントさんが到着/裏口から楽屋入り、同時進行で観客を入れるという流れです。当日は本部からも応援スタッフが派遣されることになっていました。
 私はイベント要員ではなく、当日のレジ係をする事になっていました。イベント中でも店舗部分は通常営業する事になっていたので、普段接客販売をしている人がレジに入るよう指示があったのです。

 前日までにイベント会場を作り、飾りつけや必要なものを揃え準備万端となった終業後、店長が従業員に言ったんですよね。

「明日さぁ、イベント当日だし、ちょっと早めに来てくれない?」

 私は帰宅する電車に揺られながら、明日は始発で行こうと決めました。
 というのも、私は電車で一時間かけて通勤していて、いつもだったら7:20の電車に乗っていたわけですが…この時間帯の電車って、めちゃめちゃ混んでいたんですよ。絶対に座れないし、なんなら朝っぱらから圧縮されて中身が飛び出す可能性すらある危険な乗り物、とてもじゃないけどイベントでエネルギーを使う日に乗り込む気になれない!!
 始発電車は5:50、その時間帯なら確実に座れるし英気を養う事もできよう、早めに到着して店の前のゴミ拾いでもしておこう、自動販売機のゴミ箱とか掃除しておいたほうがいいよね、いつもだったらオープンしてからやっているガラス拭きを先に済ませておけば、何かあった時に動く時間ができるはず……。

「うわ!!早いね!!」

 イベント当日、7:00に店に到着すると、ちょうど店長が来たところでした。どうやら店長も始発で来たようでした。二人でオープン後の作業をする事になり、少し念入りに外掃除をし、自動販売機の表面もしっかり拭いて、いつも以上にガラスクリーナーを吹き付けてガラスを磨いて。…まあ、ここまでは順調だったんです。

「おはようございます…って、二人だけ?!」
「ちょっと…本部だったら全員集合してるよ?!」

 音響を取り扱うスタッフが来たのが8:15頃で、やけに空気がピリピリして非常に居心地が悪かったんです。そんな中、本部スタッフが一人二人と増えて、バイト君たちもちらほら来始めているというのにいつまでたっても同僚と先輩社員は来ませんでして……。

「おはよーございまーす!!」

 先輩社員が来たのは8:30、なんでも、タレントさんの大好物の坂角のゆかりを買いに行っていて、こんな時間になってしまったのだとか。

「おはようございます」

 同僚が来たのは8:50、なんでも、一本早い電車に乗ったのだとか。

 トークイベントが行われている最中、私と同僚はレジに立っていたのですが、そこで思いがけないことを言われました。

「ちょっと早く来てって言われたんだからちょっと早く来ればいいだけでしょ。なんでわざわざ始発で来て仕事をするの?店を任せられている店長だったらわからないでもないけど、ただの平社員がする事じゃないよね。もし7:00に人員が必要なら、店長はきちんと7:00集合というべき。あんたが早く来ることで、みんなが始発出勤しなければいけないみたいな常識がこの店に染み付いたらどうするの?はっきり言って迷惑なんだよね、もっと空気を読んで行動した方がいいよ」

 まさか自分の…早め早めの行動が咎められるとは思っていなかった…。
 というか、今まで自分が良かれと思ってしていた事、もしかして周りは迷惑に思っていた?

 たしかに、バイトとか早めに行くと機嫌の悪いオーラを放つ人はいたような。ヤバイ、もしや私ってめちゃめちゃ迷惑な人だったんじゃないの……?

 遅れて怒られることを心配するあまり、早ければ早いほど良いのだと思い込んでいたのだと…気が付いたと言いますか。
 たしかに…店長は私に労いと感謝の言葉はくれましたが褒めたりはしなかったし、先輩社員も同僚も注意はされなかったんですよね……。

 以降、【早めというのはいったいどれが正しいんだ沼】にどっぷりハマってしまいましてですね。見事に拗らせてしまいましてですね。

「いつも早いねえ!!お疲れさま!!」
「いつも早く来ていただけるから安心してるんですよ!!」
「いつもありがとう!次回もお願いしますね!!」
「あんまり早すぎると近所の人の迷惑になるかもしれないから…」
「すごーい、お祭り好きなんですね、待ちきれなかったの?」
「一番に来てステージの上で遊んでたんだろ!!」
「榎本さんはもっと早くに来てたけど?!」
「夜中から頑張ってる人もいるのに君責任感ないんじゃないの!」
「ごめんなさい、私来るの遅すぎですよね、今後はもっと早く来ますから!!(まだ1時間前)」
「すみません、すみません!!遅れました!!(まだ30分前)」
「申し訳ありません、子供が転んじゃって!!今すぐ取り掛かります!!(まだ20分前)」
「なんだあ?自分は気遣いできる人ですって見せつけたい系?」
「なんか今日遅くないですか?ひょっとしてこのイベント嫌でした…?」

「ええとスミマセン、ごめんなさい!」
「はわわ早すぎましたね、すみません!」
「アアア更年期で朝早く目が覚めちゃうんですよ、だから早くきたの気にしないでー!」

 なんでこう、毎回毎回早く行っても遅く行っても来てくれと言われた時間に伺っても前日から前倒ししても苦言を呈されてしまう!?なんでいつも私は頭を下げまくっているのだ!どうして私はあとから来た人に早く来た言い訳をしているのだ!

 長年平凡に生きておりますが、未だに
【明日さぁ、ちょっと早めに来てくれない?】
 
が、わからないのですよ!!

 しかもですね……。

「みんな一時間前には来て作業してたよ!!!」
「ハハハ、どうせモーニング行ってたんだろ?食い過ぎだよ!!」
「つかもっと食う量減らして痩せたら?」
「アラー、女性はこのくらいふくよかでないとしわが目立つのよ、ウフフ!!」
「もっと早く来ると思ってたし、昨日準備途中だったけど帰ったんだよね!!」
「ごめーん、俺やりたくないからやって!!早く来たんだし時間あるでしょ!!」
「ごめーん、俺早起き苦手でさあ、眠いからちょっと寝てくるわ!!」
「ごめーん、人いっぱいいるみたいだし私帰らせてもらうね!!」
「じゃーあと任せるわ、イベント始まったらまたくるんで!」

 …みたいな展開がですね、わりとかなり相当ウルトラめちゃめちゃ頻繁にあるんですよ!

 みんな実に自由気ままに都合のいい行動をして、自分の常識をガツンガツンぶつけてくるんですよ!
 何も言い返せずに振り回される事しかできないヘタレ貧弱メンタルいい年してコミュ障の気弱すぎる私がここにおりましてですね?!

 ああ、この世の中は…自分勝手な人でいっぱいだ――(゜∀゜;)――!!!

 ……という事でですね。

 私はこれからも、自分勝手に早め早めの行動をして行こうと思いますよという、お話なんですけどね……。

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