気迫と希薄の物語
……物語を、思いついた。
これを書きたい、あれも書きたい。
こう書こう、ああ書こう。
よし書こう、今書こう。
アイデアの浮かんだばかりの私の脳内は、この上なく活動的だ。
一つの種から芽が出て、葉を付け、茎がのび、幹を肥やしながら次々に枝が分かれていく。
気迫に満ちた、物語の成長。
この物語を大きく育て上げねばならない!
この物語を書けるのは自分しかいないのだ!
この物語を生み出した責任をとるのは自分だ!
大きな木がそびえたつ頃、私は、ペンを取り出し……その成長の記録を、文字で残す。
気迫に満ちた執筆作業が始まった!
勢い良く、頭の中に広がった物語のあらすじをメモ帳に書き写す。
素早く、枝を伸ばしきった大樹の姿をメモ帳に書き写す…。
一刻も早く、この頭の中で完結した起承転結を書き写さねばと!!
文字がゆがんでいく。
文字が崩れている。
文字が続かない。
気迫が、希薄に変わってゆく。
パッと思いついた物語は、あっという間にその姿をおぼろげなものに変えてしまう。
パッと思いついた物語だから、あっという間にその姿は揮発してゆく。
パッと思いついた物語だからこそ、あっという間にその姿は消え!
あ、アアア!!ヤバイ、ラスト忘れた!
あ、アアア!!ちょ、つなぎの名シーン!!
あ、アアア!!う、出だし何だったっけ!!!!
……そして手元に残ったメモには。
ギャーっていうからよしよしっていった、うよきょくせつ、食べたらなんとかなるたぶんモグモグウマイ!宇宙人はかくあるべしうまくいったのでみんなで笑う、その口のなかに世界があるから仲良くなったもじありだけどたぶんなんとかしかしどうにかだからないちまりうぐぐでむむむゆえに終わりじゃなりすりん…√
……。
ねえ、これ…なんの、物語……?
うっすらと見え隠れする、物語の貧弱な姿よ……。
気迫の抜けた希薄な物語は、へっぽこな文字列として…どこかで漂っているらしい……(泣)
わりと記憶力がいい加減なので、忘れっぽくなってるんだかもともとなんだか判別できなくて泣ける。