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俺、生まれ変わったら【宝くじ】になってたんだけど…
……俺は、宝くじ。
第984回、全国自治宝くじ…いわゆる年末ジャンボだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、一攫千金を夢見る、無駄遣いの多い男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、一等に当選する宝くじになりたい」
そう願ったのには、理由(わけ)がある。
俺は総額1000万をつぎ込んで宝くじを買い込み続けたのに、一度も当たらなくて…その恨みが魂に刻み込まれていたのだ。
毎月1万円、1年で12万円、18歳から80才まで62年間、たまに多めに買ったこともあるから…忘れられるはずもない。
1000円当たっては金運が上昇中だと思い込み追加でくじを買った事と、今までに使った金があればとみみっちくぼやいていた事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――おとうちゃん、いつもの、買ってきたよ!!
俺を購入したのは、年老いた父親の世話をしている中年のおばさんだった。
俺は願った。
「一刻も早く当選番号発表日が来て、換金されて、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
毎月の宝くじ購入と当たるためのおかしな儀式をすることだけが生きがいになってしまった爺さんは、俺を神棚に飾り、金もないのに毎日豪勢な貢物を差出し…いたたまれず、辟易するしかなかったのだ。
金箔で丁寧に包まれ、大吟醸とコシヒカリを供えられ、おかしな呪文とともに当選したら半分を寄付することを約束すると何度も口にし、これほどやっているのだから当たってもらわなければ困るとのろいの言葉を吐き続ける…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――いよいよ明日が当選番号の・・・
いつものように神棚で金箔に包まれて爺さんを見下ろしていた、その時。
朝から飲まず食わずで供え物の準備をしていた老人は、足の踏み場をほんの少し間違えて…転倒した。
俺は願った。
「早く、早く……、誰か!!」
そう願ったのには、理由があった。
爺さんは自分の朝飯を作っている最中で、コンロではおかゆが煮えたぎっていたからだ。
掃除が苦手で、物を大切にすることが身上の爺さんの家には…燃えそうなものがたんまりと蓄えられている。
古い家のキッチンは隙間風が入り込んで寒いので、ついさっき給油したばかりのストーブもいつも通りに…買い溜めされた灯油のポリタンク横で稼動している。
……そろそろ、娘が来る時間だ!
―――…ピー!あれ?おとうちゃん?…でないなあ、トイレにでも行ってるの?あのね、海ちゃんが熱出しちゃって、今日は行けそうになくって…
食卓の上においてある電話が鳴り、留守番電話のアナウンスが流れた後…娘がメッセージを残した。
爺さんは電話の声に気がつき、倒れこんだまま手を伸ばしたが…声は発せられず、やがて力尽きて動かなくなった。
俺の願いも…むなしく。
おかゆから水分がすべて蒸発し、焦げ付いたたなべから火が出て、汚れたら取り替えればきれいになるからという理由でコンロ周りに敷き詰められたぼろタオルに燃え移った。
火は瞬く間に燃え広がり、ストーブと灯油入りのポリタンクが爆発して…俺は、秒で、消し炭になった。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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