鳩の人

　えー、人にはいろいろと、くせというものがございまして。

　何を隠そう、この私、擬人化する癖が、ございまして。

　バイト先の量販店で、大きなぬいぐるみが納品されてきた時には、

「わあ！おっきい子、キター！」

　倉庫型量販店でたくさんあるスイカの中から一つを選ぶ時には、

「わーい！この子にしよ！」

　遠くの山の一部が紅葉しているのを見つけた時は、

「あ、あのあたりに照れてる皆さんが！！」

　動物園でライオンが寝そべっているのを見ては、

「ちょｗｗあの人の肉球見てみ？！めっちゃぷにぷに！！」

　小田内さんちの犬さんがおなかを壊したという話を聞いたときだって、

「ああ、あの人はいつも食欲旺盛だからねえ…変なもんでも拾って食べたかねえ…」

　どうもこう、人ではないものを、人と呼んでしまうというか、人と認識？しているというか。

　目についたものを「あの人」と言ってしまうくせがありまして。
　無意識にかわいいオーラのあるものを「この子」と言ってしまうくせがありまして。

　なんなんだろうなあ、いつ頃からこうなんだろう？

　気が付いた時には、新しいパソコンを見ては「この人めっちゃ優秀！」とか言ってたんだよなあ…。
　マイカーにはもちろん名前を付けたし、誰かに紹介するときはいつだってこの子うちの子と言っている。

　普段わりと、独り言的な呟きが多い方でさあ。
　あんまり人の耳を気にしないで気楽にこう、思ってることが口から出ちゃうんだよね。そのせいで、まあ、毎回毎回、ツッコミがですね。

「わあ！おっきい子、キター！」
「人じゃねーし！！ただのぬいぐるみっしょ？！」

「わーい！この子にしよ！」
「この子って何w今から食うのにｗひっどｗ」

「あ、あのあたりに照れてる皆さんが！！」
「皆さん？ああ、木のこと？風流だねえ…」

「ちょｗｗあの人の肉球見てみ？！めっちゃぷにぷに！！」
「ライオンは人じゃないよね？！まあおっさんみたいな寝方してるけど…」

「ああ、あの人はいつも食欲旺盛だからねえ…変なもんでも拾って食べたかねえ…」
「あれは犬でしょ、人ってのは人間に向かって使うべきでうんぬんかんぬん…」

　でもさあ、身についちゃった習慣ってのは、なかなか抜けないものでさあ。今日も今日とて、散歩中にですよ。

「あ、鳩の人だ、朝から忙しないなあ…ふふ……。」

　公園の砂利道で、呟いたらですよ。

「やあやあ！よくわかりましたね！！私、鳩の人です！！どうも、どうもどうも！！！」

　まさかの、鳩が…凸してきましてですね？

「いやあ、初めてですよ、あなたは鳩の人をご存じで？！」

　やけにフレンドリーな鳩が、にじり寄ってきましてですね？！

「長年鳩の人をしてまいりましたがね、いい加減辛くてねえ！」

　逃げ出すわけにも、行かないじゃないですかアアアア！！

「最近は世知辛いですなあ…鳩にエサやり禁止とか…どこのどいつですか、そんな法令を施行したのは！おかげでどれほどの仲間達が飢えたと…クッ！！！」

　さんざん愚痴を聞かされる羽目になりましてですね？！

「あなた、わかります？！フライドチキンを啄まされる屈辱！いるんですよ、非人道的な輩ってのがね？！」

　ここぞとばかりに、思いの丈をぶつけられましてですね？！

「ああ…またお会いした日には、楽しく話しましょうぞ、ではこれにてごめん！」

　げっそりして、ようやく公園を抜け出してきたんですよ……。

　ああ、この世には…私の知らない、おかしな現象がまだまだたくさんあるらしい……。

　……いつどこでまた巻き込まれるか、分からないってね。
　今後は気軽に口を滑らすことなく、注意深く口を開こう……。

　公園の階段を、一段、二段と下りながら、心に……誓い。

　最後の階段を踏んだ時、目の端に…白いものが、見えたわけですよ。
　なんだろうと思い顔をそちらに向けると、白い…塊が、ですね。

「なんだ、猫の人か。」

　……何の気なしに、つぶやいて。

「やあやあ！よくわかりましたね！！僕、猫の人です！！どうも、どうもどうも！！！」

　……私は、いつまでたっても、家に帰ることができなかった、という、お話ですよ……。

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【鳩の人】【猫の人】中の人に聞いてみようとか、そういう感じで日々多用しております。