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あの日の捏造、今日の大法螺

 ……小学五年生の頃の事だ。

 梅雨に入る前の過ごしやすい時期、学活の時間にクラスのみんなでソフトボールをやることになった。

 私は、ソフトボールというスポーツを…この時に初めて知った。
 野球よりも大きな球、おかしな投げ方…バットを握ったのも、この時が初だった。

 ドッチボールでやる三角ベースぐらいなら何度か経験があったが、基本的に私は野球に興味がなくて…イマイチルールがよくわからなかった。
 クラスを3チームに分けてゲームをする事になったのだが、もともと運動全般が苦手でどんくさいタイプということもあり、私は完全に足を引っ張る要因でしかなく…非常に居心地が悪い時間をすごす事になった。

 見よう見まねでバットを振るっても、全くかすりもしない。
 初めて手にはめたグローブでは、ボールが取れない。
 飛んでくるボールが怖くて逃げてしまう。
 転がってきたボールを拾って投げても、あさっての方向に飛んでいく。

 一度も塁に出る事はなく、チームメイトに怒鳴られ続けて…地獄の時間は終わったのだ。

「では、みんなでやったソフトボールのことについて感想文を書きましょう」

 学活のあとの国語の時間に、感想文を書くことになった。

 みんな、思い思いに楽しいソフトボール大会の出来事を書いているようだった。初めて握ったバット、初めて掴んだボール、初めて踏んだベース、初めて打った瞬間、みんなで点数が入って喜んだ事……。クラスのあちこちから、少しはしゃいだ声が聞こえてきていた。

 だがしかし、私はただ…黙って作文用紙を見つめる事しかできなかった。

 なぜならば、私には書きたいと思えるようなエピソードがなかったのだ。

 ソフトボール知らないの?!と馬鹿にされたし、バットの持ち方が変だと笑われたし、一度しかバッターボックスに立たせてもらえなかったし、硬いグローブがなかなかはまらなくて爪が割れたし、全然声の届かない一番遠くの変なところで突っ立っていただけだし、走るのが遅いと男子に怒られたし、お荷物がいなければ勝てたのにと憎しみを向けられたし。

 恨み言ならばいくらでも出てくるが、下手に名指しで嫌な事をされましたと書いて・・・後ろの掲示板に貼り出されてはまずい。

 何を書いたらいいものかと少し悩んだ後、私は……本当に、何の気なしに、自然に…すんなりと文字を綴った。

 バットを握り、バッターボックスに立った時の…空気の張り詰める場面。
 1球目を見送って、ピッチャーが少し得意げに笑った瞬間。
 2球目、思いっきりバットを振って空振りをして聞こえた、風を切る音。
 3球目、これで最後なんだという気合をこめて振り切ったバットに当たった、球の重み。

 駆け出したときに足の裏に感じた砂利の大きさ、ベースを踏んだ時の硬さ、お前すげえなというファーストの同級生の表情、遠くで仲良しが一生懸命ボールを拾って投げているのが見えた時のホンの少し得意げな気持ちと走らせちゃってごめんねという申し訳ない気持ち。

 何一つ経験していない事なのに、あたかも現実に起こったかのように…感想文を書き上げた。

 完全なる、捏造である。

 何一つ事実のない、思い込みと想像の賜物だった。
 自分は一切活躍していないのに、さもものすごいシーンを背負ったかのように書き綴ったのだ。

「とてもいい感想文があったので読ませてもらいますね。臨場感のある、とてもいい作文です。誰が書いたかは内緒にしておきます。皆さんも見習いましょう」

 私の書いた感想文は、後日、先生に朗読された。

 クラスメイトたちが誰が書いたんだろうとひそひそと話しているのを見て、胸のあたりがきゅっとなった。

 ……先生は、私の捏造を見て、何を思ったのだろうか。

 完全に嘘丸出しだから、私が書いたとは言えなかったのだろうなと、思った。
 よくもまあここまである事無い事書いたものだと…呆れたのかも知れないと思った。

 嘘を書いたのに怒られなかったこの一連の流れは…私の中でかなり大きな出来事であり、収穫だった。

 それまで、実際に経験した事や思った事、正しい事に学んだ事しか文字にしてこなかった私にとって、まるっと世界観が変わったような…衝撃があったのだ。

 そして、以降……、何かにつけて作り話や大げさな描写、ただの傍観者の癖に当事者ぶった物語を書くようになった。

 ついつい言葉を、場面を、感情を、エピソードを派手に装飾する癖がついてしまったのだ。事実がゴテゴテに演出されて…もとの物語が埋もれて確認する事が難しくなってしまうほどに。

 気がつけば、自分の本心を…ありのままの自分をさらけ出す事ができない人間になってしまっていた。

 かなり大人になった、なりすぎた今も、平気の平左で捏造を繰り返しており、もはやいまさらナニをどうやって平凡なエピソードをそのまま文章にしたらいいのかわからないレベルだ。

 もう、いまさら直せるとも思えないし、直そうとも思わない私がここにいる。

 ……どうせなら、このままもっと限界まで捏造方面に振り切れば良いじゃないか。

 だから今日も、私は嘘八百を並べ立て……、適当な物語を書いている、という、お話。

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たかさば
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