パンツはかわいいに限る
昔々のそのまた大昔、パンツの歌が大流行したことがあった。
誰それがどういうパンツをはいているとか、そういう感じのコミックソングである。
世間で流行り、学校で流行り、休み時間には実に気軽に男子が口遊んでいた。
それを聞いて不愉快な表情を浮かべる女子は多かった。
特に、歌の中で名前を使われている女子たちは、かなりの被害を被っていた。
「やーい!!お前のパンツ、くまさんパンツ!!」
「ちがうもん、ちがうもん!!」
「お前スケスケパンツなんだろ?!」
「ちがうし!!!」
やけに派手に喧嘩をしている同級生たちを見て、なんとも微妙な気持ちになった。
というのも、私は白いパンツしかはいた事がなかったのだ。
パンツは白いもの、それが私の常識だった。
周りの子供達も、あまり柄付きのパンツをはいていなかったように思う。
たまにワンポイントぐらいのものははいていたようにも思うけど、明らかな色付きやバックプリントなどは見た覚えがない。
パンツは白いものである、そういう認識が私の中にはあった。
模様付きのパンツなんてあるんだ、そういう感覚だった。
認識が変わり始めたのは、高学年になった頃に読んだ、とあるギャグマンガだった。その登場人物が、かわいいパンツ集めを趣味にしていたのである。
女の子はかわいいパンツをはくものなのだと、うっすら学んだ。
そうこうしているうちに中学生になり、高校生になった。
スーパーの2階の衣料品コーナーで3枚1000円で売っている白いパンツをはいていた私は、修学旅行の時に驚いた。同級生たちが、みんな…かわいいパンツをはいていたのである!!
中学の頃は、白いパンツの子がほとんどだったように思うのだけど…高校に入るタイミングで、乗り換えた?少しやんちゃな子が多い学校だったからか、やけに派手でかわいい、小さいパンツをはいている子ばかりでとても恥ずかしい思いをした。
初めて自分のおこづかいで下着を買ったのは、この頃だ。
スーパーの下着売り場に行って、気に入ったものを買っては、着用するようになった。
ところが…当時は実家で暮らしていたので、洗濯や洗濯もの干しという困難があった。
あまり派手なものを買うと、すぐに祖母や母親から茶々が入って…笑われたり晒されたりするのである。色付きの物をはく奴はハシタナイ、こんなアニメの柄は子供がはくやつだ、変な模様だからおばさんが来た時に見せてやった…。
普通に干しても、部屋の中で陰干ししても、目ざとく見つかってはいじられて…私は学んだ。
白いパンツこそが、女子の下着として正しいものなのだと。実家にいる以上、パンツは白でなければならないと。
恥ずかしくない程度に地味な白い下着を買い、大学時代を過ごした。多少のレースであれば、家族は見過ごしてくれたのだ。
そして、就職して実家を出て、私は暴走した。
今まで散々蓄積されてきた、かわいいパンツへのあこがれが爆発したのである!!!
派手なパンツにかわいいパンツ、レースたっぷりパンツに毛糸のパンツ、小さいパンツにおしゃれなパンツ、これでもかというほど、パンツ集めに夢中になった。大昔に読んだギャグマンガのおさげのキャラクターも真っ青の、パンツ収集の始まりである。
引き出しの中を細かく仕切って、色とりどりのパンツを愛でながら日替わりではく日々。
……思えば、あの頃はとても楽しかったし、満たされていた。
結婚して、娘が生まれて、かわいいパンツが似合わない体型になってしまい…自分ではいて楽しむことをしなくなった。
娘にかわいいパンツをはかせて、大喜びしていたのだが。
「これがイイ!!」
なんと、娘は…白いパンツをご所望するタイプの人だったのだ。
自分ではけず、子供にもはかせられず…仕方ないかとあきらめていたのだけれど。
スポーツジムに通うようになって、驚いた。
なんと、派手な下着をつけている人が…わりとたくさん、いたのである!!!
年も、体型も気にしないで…好きなものを付けていらっしゃる人の多いこと!!
ジム通いをして体を引き締めることに成功した私は、俄然張り切って派手なパンツをはくようになった。
ゴテゴテのリボンつき、ひらひらのレース、カントリープリントにアニメキャラクタープリント、定番のしましまパンツにチェック柄、蛍光色にぬいぐるみつき・・・・・・!!!
大喜びでかわいいパンツライフを過ごしていたのだが。
弟が生まれることが判明し、しばしお休みをすることになり。
弟が生まれて、なかなかかわいいパンツ生活を復活するタイミングが訪れず。
弟が育っていくのと同じスピードで、自分の体も成長し始め。
かわいらしいパンツでは、己の膨張した体を包み込むことができなくなり。
いつかはくんだ、もうちょっとしたらまたはける、はける日が来るまで大切に取っておこう。
そうこうしているうちに、あっという間に時は過ぎ去りましてですね。
ゴムは劣化し、色はくすみ、布地はへたれて、レースはほつれ、リボンはおかしなしわがつき。
蓄えられてきた宝物達に、別れを告げることになり。
すっかり馴染みになった、へそを覆う綿100%3枚1000円のパンツに手を伸ばすようになり。
きらびやかなキャピキャピしたパンツ連合に、ちらりと目を向けるように、なりましてですね。
うわあ~♡何あのシフォン!ひゃ〜♡アリスっぽいデザインたまらん!く〜♡絶妙なフリルの純潔オーラ!あ〜♡セットはやっぱり尊い!きゅ〜♡私があと20歳若かったら……! かわいいパンツのみなさん、今後ははいて楽しむのではなく、目で見て楽しませてくださいな~♡
「ぱんつ~まるみえ♪ぱんつ~まるみえ♪ごめんね♪」
懐かしいフレーズを口遊みながら、下着売り場を徘徊する怪しい人がですね。たまに、どこかに出没するらしいよって話です、ハイ……。
フィ、フィクションなんだからねっ?!