魔王を倒した伝説の勇者だけど、武器が竹のやりだったんで神にめっちゃ文句言われてさ、しょうがねえから鍛冶職人に剣作ってくれって頼みにきたのにいいよって言ってくんねえの、マジ詰んだ、どうするよ?!
先日魔王を倒した俺は、ようやく転移先の異世界から日本に帰れるってんで朝からワクワクしていた。
「っしゃー!!帰ったらたらふくおにぎり食うぞ!!うまい棒も食うぞ!!ゲーセン行ってクレーンゲームやりまくってエロゲやりまくるんだ!!!くー!!」
「いよいよですね、どうか元の世界にお戻りになられてもお元気でいてくださいね。」
ここに来る時に神が言ったんだ。無事魔王を倒したら、トラックにぶつかる五分前に帰してくれるってさ。習得した魔法もお土産に持たせてくれるってさ!俺はもうそりゃあ必死になって頑張ったね!でもってちゃんと魔王倒したね!ひゅう!さすが!俺っ!!
「そろそろ神が降臨なさるはずなんですけど、遅いですねえ…。」
先週巫女に下った神託じゃあ、今日の正午に神が降臨してだな、俺が魔王を倒した武器にこの世界の悪を封じる力を込めてだな、星の終わりまでその封印パワーを放出し続ける礎にするって話になっててだな!俺は武器を洗って磨いて準備万端で待っているわけなんだけども…。
「・・・またせたな!!!」
やけに前歯のでっかい神が降臨したぞ、見覚えがある、こいつは確かに俺をこの世界に引っ張り込んだ張本人!!!
「あー!!やっと来たよ!!も~めっちゃ待ったんだからさあ!!!はい、これ、俺の武器!!!じゃあ、早いとこ日本に飛ばしてよ!!約束覚えてる?魔法の事頼んだよ!!」
俺が武器を神に投げて渡そうと…
「はあっ?!何これ!!!た、竹のやり?!馬鹿じゃねえの、こんなん伝説の武器になるわけないじゃん!!」
「何言ってんだ!!魔王の腐蝕霧に耐えたのは殺菌効果が豊富な青竹のやりだけだったんだぞ?!」
俺が渾身の力を込めて魔王の心臓ぶち抜いた、正真正銘の魔王討伐武器なんだけど?!…ちょ!!投げ捨てんな!!!
「ダメダメ!!こんなん数年で腐っちゃうじゃん!!なんかもっとかっこいい武器ないの?つか、俺のあげたオリハルコンのつるぎどうしたんだよ!!つかオブシダンソードは!!草薙の剣は!!!」
「オリハルは魔王の霧で鈍なまくらになったから武器屋に二束三文で売り払ったし、オブシダンに至ってはランドタートルに一撃入れたらひび割れたぞ?!アレ破片が指に突き刺さって地味に傷の治り悪くてひでぇ目に遭ったんだけど!!!草薙の剣は雑草刈ってる時にマンドラゴラも刈っちゃってさ、悲鳴で空間ねじれた時に狭間に落っことしちゃったんだよ、メンゴメンゴ!」
俺は聖女像の前の赤い絨毯の上に転がった竹の槍を、少々悪びれながら手渡した。
「ちょ…マジか!!完全想定外だ、竹、竹はまずい、封印パワーが宿せない、だって竹って電気通さないでしょ?!そんなんで悪を封じるパワーが流せるわけないじゃん!!そもそも力流したら一瞬で燃えるじゃん!!こんなんただの草じゃん!!!」
「あれえ?そうだっけ?なんかエジソンって竹使ってライト発明してなかった?通すんじゃね、まあ、これでいいじゃん、多分燃えないって、竹ってさあ、めっちゃ優秀だし!草とか言いなさんなって!イケるイケる!ね!!!」
何やら神がこめかみを押さえてるぞ。頭でも痛いのかな、梅干しでも貼っとけばいいのに。
「…ちょ!!ググったけど、調べたけど!駄目じゃん!!!竹電気通しにくいじゃん!つか、竹炭になったら電気めっちゃ通すじゃん!!炭が伝説の武器とか駄目に決まってんじゃん!!!もし火災起きたらどうすんのさ、あっちゅー間に伝説の武器焼失じゃん!!!ダメダメ、竹のやり却下!!!」
「ええー!なら先に言っといてくんないと困る!!!全部終わってから言うなし!!!」
緑色の竹のやりを互いに押し付け合っている俺と神を見て、神官どもがおろおろしている。
「仕方がない、こうなったら…お前!!伝説の武器作ってこい!!!」
「はあ?!やだよ!!!俺はもう家に帰る!!おうちに帰ってママのおにぎり食べるんだ!!!」
「ママ?!勇者が何言ってんだ!!16歳から何年経ったと思ってんだ!お前もう25になるんだろ?!いい大人がママ!!ママって!!!マジちょーウケるんですけど!!!」
「バカ野郎!!8年だぞ!!8年もの間俺はこんなわけわからん世界に費やしてやってたんだぞ!!かーちゃんのおにぎりを恋い焦がれて何が悪い!!!」
「そんなんいくらでも俺が握ったるわっ!!!」
「オメーの握った飯なんか食いたかねーんだよ!!!」
「なんだとぅ?!俺の厚意を踏みにじりやがってええええええ!!!」
「うっせ―!!お前のかーちゃんでべそ!!!」
赤い絨毯の上で神とつかみ合いのケンカをじたばたやってたら、神官長の爺さんがこっちによたよたとにじり寄ってきた。
「ッカ―――――――――――――――――ッ!!!」
「「ひい!!!」」
この世の断末魔みたいな声を聞いて、俺と神はお互いのほっぺたを抓りながら動きを止めた。
「勇者と神たるものがなんという…情けない!!!!!!落ち着きなされ!!!はい!!そこに正座!!!」
「「はい・・・。」」
とんだとばっちりだ…ふかふかの絨毯の上に、神と並んで正座をする。
「武器が必要となるならば、どうしてその旨伝えておかなかったのです!」
「だって…普通かっこいい武器でトドメさすって思ってたし…。」
神がしょぼくれている、ざまあ見ろ!
「大切な武器を二束三文で売り払うとは何事ですかな!!破損は不可抗力だったとしても、伝説の武器で草刈りをするなど言語道断です!!」
「だってさあ、ユリマリが庭の草がぼうぼうだって言うから…。」
くそう、痛いとこついてくるなあ…。
「武器がない以上、竹が武器として認められない以上、新しい武器を用意しなければなりません。」
「それ見ろ!!お前はおとなしく武器作ってくりゃいいんだよ!!!」
「なんだと?!ドシロートに武器が作れるわけねえだろこのガキャ―!!」
正座をしたままつかみ合いのケンカに突入しようと…
「だまらっしゃい!!!」
「「ひい!!!」」
俺と神は、互いの髪をつかみあったまま神官長を見つめる。目がつり上がってて血走っている、これは怖い!!!
「いいですか!!!勇者殿に丸投げして、またおかしな武器を仕上げてきたら困るのは神様なんですよ!!この勇者様の事です、ガラスの剣とか持ってくる事必至です!!!熱で溶けてなくなる剣なんて困るでしょ!!!」
うへえ、ガラスで作ろうって思ってたのバレてるし!
「勇者殿も!!ママのおにぎりはもうちょっと待ちなさい!武器なんてそう二十年も三十年もかかって作るもんじゃないでしょう、一年くらいは我慢しなさい!…おにぎりは私が握って差し上げます!!!」
…これさあ、じじいの握った飯なんかいらんって言ったらまた怒られるパターンだよね、うん、だまっとこ。
「二人で鍛冶屋の門をたたくのです、いいですね!!!」
「ええー?!やだよなんで俺がこんな奴と!!」
「マジかよ!俺神様業忙しいんだけど?!」
「い い で す ね ?!」
「「はい・・・。」」
俺は、出っ歯の神と並んで…痺れる足でよろめきながら神殿を後にする事に、なった…。
魔王なき今、街の人々は平和そのもので、のほほんとした生活がほのぼのと広がっている。広場の噴水の周りには子供たちがうろちょろしてるし、川に架かる橋の上では見つめ合う男女がっ!!くそう、リア充めえええええええ!!!
「どこなんだよ、鍛冶屋はさあ…も~勘弁してくれよ、神会議に行けないと天使確保すんのがきつくなんだよ…。」
「俺だって早く帰りたいんだぞ!!!こうなったら速攻武器作ってもらって一刻も早く解散するんだ、今は争ってる時じゃねえ…。」
俺と神は、のどかな街中の端に位置する武器工房の名匠の元を訪れた。事情を話し、武器作成を依頼すると。
「無理だね!!!」
カッチンカッチン、燃え盛る炉の前で剣を打つおっさんは即答しやがった!!!
「そこを何とか!!」
「おっさんプロなんでしょ、ちゃっちゃっとさあ、電気流せるカッコイイの作ってよ!」
「人にものを頼む態度じゃねえなあ!武器ってのはなあ!!ここがこもんねえとだめなんだ、ここがな!!!」
おっさんは真っ赤になっている剣を炉に突っ込み、こっちを向いて心臓のあたりをどこどこ叩いている。
「魔王が討伐されて、今まで大量に作ってきた魔王軍と戦うための剣の需要がパタリとなくなったんだ!まずはそいつらを日用品に加工する方が先だ!魔法発動用の杖も足りねえし、獲物を狩る弓矢もねえ!鍋だって足りねえし…。」
汗を拭きふき、おっさんが俺と神に状況を説明する。…一秒だって作業の手を止めていない、なんちゅー真面目な。
「でも、平和を守るための封印の力をですね、一刻も早く世界に流さないとですね。」
「順番は順番だ!!!包丁2000本、鍋500!弓矢のセットが200に杖が500本!!!全部作り終わったら取り掛かってやるよ!!!それまで…ここで修業でもして待つんだな!!!」
あかん…頑固おやじがここにいる…。若造の俺と神の話を聞く気なんざ微塵もねえぞ…。
「修行て!!俺は神だぞ?!」
ぎろり。
親父の目が……神を睨み付けているっ…!!!
「…なんだ、お前は神であることを振り翳して、人として当たり前の順番を守るという行為を反故にするつもりなのか。権力を振り翳して、困っている人々の願いを切り捨てるというのか。神でありながら人々を第一に考えず己の都合を優先するというのか。・・・へえ。」
「ちょ!!…えへへ、すみませんねえ、この神はちょっと常識がなくって、はは、ははは、おいっ!!ちょっとこっち来いっ!!!」
俺は頑固おやじの前から神をつまみ上げて、工房の隅に移動した。神の耳元でこっそり囁く。
「ちょ!!バカ!!あたりさわりのないこと言っといて1年後に飛ぶんだよ!!そしたらすぐに剣作成に取り掛かれる、スムーズに武器が手に入るだろ!!」
「おお、確かに!へへへ、あたまいいな、よしそれで行こう。」
神と並んで、揉み手をしながら頑固おやじの元へ。
「いやあ、すみませんねえ、じゃあ弟子入りします、どうぞよろしく。がんばりまーす!」
「鍛冶なんてしたことないけど、やれるだけやります、お願いしますー!」
「・・・ふん!!!」
親父の鼻息を受けた後、俺と神は工房を後にし、そのまま一年後に飛んだ。
やけに小ぎれいになっている工房のドアを開け、神と並んで頑固おやじの前にいそいそと顔を出すと。
「ッカ―――――――――――――――――ッ!!!」
「「ひい!!!」」
ありえないほどの重低音と気迫が俺と神を襲った!!!
「バカ野郎!!!手抜きをすんじゃねえ!!!お前らが1年前から飛んできたことはわかってるんだ!!いいか?今すぐ戻るんだ!!!修行なめんなよ?戻れっ!!!!」
「「は、はひぃいいいいいいいいいいいいい!!!」」」
俺と神はっ!!!腰を抜かしつつ!!へっぴり腰で一年前に戻ることになってえええええええ!!!
その日はげっそりしてしまったので、近所の宿屋に泊まることにした。
痛む腰をさすりつつ、神といろいろ画策する。
「つかあのオヤジはダメだ、もっとさあ、適当な剣でいいから打ってくれる奴探そうぜ。」
「要は電気が通って腐らなきゃいいんだ、広いこの世界、金積んだらすぐに作ってくれる奴いるだろ。」
「そうだな、明日は各地を飛んで金に汚い鍛冶屋を探そう。」
「伝説の武器作らせてやるって言ったら逆にはりきっちゃうんじゃね?」
「とはいえあのクソじじいほっとくわけにもいかねえよな、明日丁重に断りに行くべ。」
「そうだな、変な噂でも流されたら困る、勇者と神の名にキズがつくしな。」
俺と神はその晩ぐっすりと眠りについた。
腰の痛みも取れた次の日の朝、頑固じじいのもとに顔を出した。
「ええと、あのう、僕たちやっぱ修行ちょっと無理げなんで、別の工房行くことにしました…。」
「はは、お騒がせしましたね、おじゃましましたー。」
顔だけ工房に出して、すぐさま去ろうとしたその時!!!!
「ッカ―――――――――――――――――ッ!!!」
「「ひい!!!」」
「……おい、お前ら。つまんねえ小細工しようとしやがったな?!」
「い、いえ、そんな、僕らは別に、なあ?!」
「ん、んだんだ!!!」
大きな声に腰を抜かした俺と神は、屈強な頑固ジジイにつまみあげられてえええええええええ!!!
「今日から、修行を、するんだろう?!」
どさっ!!!!
まだ火の入ってない、炉の前に投げ捨てられたアアアアアアア!!!
「い、いえ、僕たちはっ!!!」
「は、ははははは・・・・!!!」
「それともなんだ、お前らは、一度口に出した事を、神だと、勇者だという理由で簡単に反故にするというのか。ふうん、なるほど…?そりゃあたいした人格だなあ!ずいぶんちいせえ器だなあ、おい!!」
腕を組み、ぎろりと上から睨み付ける、頑固おやじの目、目、目がああああああ!!!
「は、はは、み、水汲んできますぅううううう!!!」
「バケツどこですかねええええええええ?????」
何このおっさん、実はこいつが裏ボスなんじゃないの?!
神をもビビるこの気迫、この存在感、この恐ろしさああああああああ!!!
「・・・ふん!!!そこにある!!おめえら、逃げ出すんじゃ、ねえぞ…?」
「「は、はひぃいいいいいいいいいいいいい!!!」」
俺と神は今日も頑固おやじに扱かれつつ。ああ…今日で何日、いや、何年たったんだ、いつまでたっても剣は作ってもらえない。毎日水汲み、玄関掃除、飯の用意に風呂の準備、納品に矢磨き…。
「俺いつになったらおにぎり食えるの?早く帰りたい、帰りたい、帰りたい…エエエエ――――ン!!マ―マ――――――ッ!!!!」
「うっせえぞ!!!はよ水汲んでこいやっ!!!」
飛んできたバケツを間一髪で避けたら。
ガボンっ!!!!!!!
隣で矢を削ってる神の頭にクリーンヒットした。
「…ってぇえええええええ!!!こうなったら魔法でこの工房をぶっこわ「おかしなマネしようとしてんじゃねえよなあ…か、み、さ、ま?」」
にぎゅり、にぎゅり、にぎゅり・・・。
いつの間にか後ろに立っていた頑固おやじがっ!!!
…神の頭が、頑固おやじの握力で、形を、変えてゆくぅうううううううううう!!!
「なななな!!!なにもしてませえええええええん!!!!」
一体いつになったら、俺は日本に帰れるのか。
一体いつになったら、神は天に帰れるのか。
平和な世界で、今はいない悪を封じるために、剣を作らねばならないとかさ。
もうさ、今更だけど、そんなん必要なかったんじゃないの。
余計なことをしようとするからこんなことになっちゃうんだよ、さっさと帰ればよかったんだ、さっさと帰せば良かったんだ。
「くっそー!!元はといえばお前があああ!!!」
「なにおう!!お前が俺の武器蔑ろにすっからだろうが!!!
「なんだとゴルァ!!!」
「なんだと?!やんのか!!」
つかみ合いのケンカを始めた俺と神だったが。
「ッカ―――――――――――――――――ッ!!!」
「「ひい!!!」」
二人仲良くすくみ上ったところに!
ガボンっ!!!!!!!ガゴンっ!!!!!!!
汚くてごっついバケツが飛んできて、俺と神にクリーン、ヒット‥‥。
遠のく意識とぼやける視界の向こうに、視点の定まらない神の間抜け面が見えた。
神の目にも、俺の間抜け面が映ってるんだろうなあ…。
俺はいったいいつになったら帰れるんだ。
ママのおにぎり、食べたいなあ…。
「やあやあ、勇者殿、今日もおにぎりの差し入れ、持ってきましたぞー!」
俺は今日も、じじいの握った、しょっぱいおにぎりを、食べることに、なりそう、だ……がくっ。
こちら動画もございます。