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俺、生まれ変わったら【トラックボール】になってるとか…マジか…
……俺は、トラックボール。
親指でボールを動かして操作をするタイプの、ポインティングデバイス。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、パソコン関連の仕事をしている男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、トラックボールになりたい」
そう願ったのには、理由(わけ)がある。
俺は歴代のトラックボールのボール部分をとっておくのが楽しみだったからだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…重厚感のあるボール部分が増えていくたびにテンションが上がったことは忘れられなかった。
手のひらの上にのせてコロコロやったら気持ちがよかった事と、足の裏でコロコロやっていたのを忘れて立ち上がりバランスを崩してしりもちをついて痛かった事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――へえ、こんなのもあるんだ
俺を購入したのは、新物(あたらしもの)好きのおばさんだった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
おばさんは使いにくいと文句を言いながら、菓子をつまんだ汚い手でボールを転がし…我慢がならなかった。
ハンドクリームをべたべたと塗った手で触るせいで動作不良が起きているのに、ポインターが動かないじゃないと機嫌を悪くしてはカスタマーセンターにクレームを入れ、猫毛のついたトレーナーでボールを拭く…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――おかえり、はやかったね!ハーイ、けい君とティナちゃん、いらっしゃい!
県外に嫁いでいる娘が、子供をつれて遊びにやってきた。
久しぶりの帰省ということもあり、母と娘はおしゃべりに夢中になっている。
俺は願った。
「頼むから、子供たちから目を離さないでくれ」
そう願ったのには、理由があった。
来年小学生になるおにいちゃんはまだしも、三歳になったばかりの妹が…もし俺を飲み込みでもしたら大変なことになると思ったからだ。
子供たちは飼い猫と遊んでいたがすぐに飽きてぐずり始め…、おばさんがパソコンを起動させ、子供向けのゲームが出来るサイトを開いた。
せっかく遊びに来た孫たちにパソコンをやらせて旦那の悪口ばかり言っているおばさんを見ていると…、心がえぐられる。
……何かやらかす前に、早く帰ればいいのに
―――うわあ、なんかこれ、おもしろい!!
子供が、俺を触っていて…ボールの存在に気がついた。
どうしてこんなところにボールがハマっているのだろうと、好奇心を抑えきれず…試行錯誤して取り出そうと必死になっている。
俺の願いも…むなしく。
子供が俺を持ち上げて手を滑らせた瞬間、ボールが勢いよく飛び出した。
しばらく上機嫌で遊んでいた子供たちは、母親が自分を呼ぶ声を聞いて…俺をポケットに押し込み、家に帰るための車に乗り込んだ。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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