徳
――ここは、どこだ…?目の前に川があり、渡し船が止まっている。
「ここは三途の川。」
「死んじまったやつが渡る、川ってやつですがな。」
「川の向こうには極楽浄土がありやす。」
「あっちに行くには、この渡し船に乗らにゃならん。」
「ここじゃあ、前世で積んだ、徳を払っていただきやす。」
「徳のないやつぁ、船に乗せることはできんなあ。」
「あんたは徳を、積んできたんかい?」
――よく、わかりませんが、ここになにかがあります。
――僕は、魚籠の中にわっさわっさ入ってる、お札?を渡し船の船頭さんに見せた。
「ああ、これが徳だなや。」
「一枚でええよ。」
・・・おい。それをよこせ。
――船に乗り込もうとしたら、厳つい男が、僕の魚籠から徳?を鷲掴みにした。
「あーあー、なにやってんだ。」
・・・ぐ、ぅわあぁあああぁああああ!!!
――鷲掴みした、その手が、地面にめり込む。厳つい男は、そのまま地面の下に消えた。
「人が積んだ徳を奪うとか、なんも知らんやつはホンにあほっちゅーか。」
「徳の重さを知らんやつは、本当に無謀で困るわ。」
――僕は、分けてあげたかったんですけどね。
「はん!そいつは自分勝手な自己満足だで!」
「自分が積んだもんは自分がつかわにゃ。」
「自分が積んだもんは、人にはやれんわ!むしろ害や!」
「親切におもっちょるやもしれんが、とんだ大きなお世話やで。」
――僕のできることを、誰かにしてあげたかったんですけど。
「あんたができるのは、自分の積んだ徳を、自分のために使う事やで。」
「あんたは、誰かのために、自分を差し出さなくてもいいんやで。」
「あんたは、自分を差し出し過ぎて、ここにいるんやで。」
「ちいと、あっちで、その魚籠ン中の徳について、じっくり考えてみい。」
――ぼくは、この徳と、どう向き合ったらいいのか、わからないです。
「わかるまでおればええがな。ここは時間なんてないんやで。」
――いいんですかね。
「ええとおもうで。」
――じゃあ、行きます。
「♪ゆらーりゆられてぇさんずぅのぉかぁわぁ~♪」
――いい歌ですね。
「ええやろ!俺の十八番やで!!」
・・・のせて。
「何やこのわっぱ!!あっち行け!!」
――川に、少女がぷかりと浮いている。ああ、船に、乗りたいのか。
「兄ちゃん!!あかんて!!」
――手を差し伸べると、少女は僕の手をつかみ。
・・・じゅぼぅぅわぁあぁあああああ!!!
・・・ぎゃぁあああああああ!!!」
――つかんだところから、体が蒸発、した。
「兄ちゃん!!二回目やんけ!!何やっとるん!!」
――ぼくは、ただ。
「施すことに美学感じるの、やめーや!!」
――やめられ、ないかもしれない。
「まあええわ!!超特急で、向こう岸までいくで!!!」
「…ほんまかなわんわ。」
――ここが、極楽、浄土?
「兄ちゃん。超特急代金、払ろうてもらうで。」
「ああ、こっちの桟橋に足のっけて、そう、ほい、降りたな?」
――ありがとうございました。
「よっこらせっと。」
「その魚籠、丸ごと貰うで。」
――はい、どうぞ。僕は、魚籠を丸ごと船頭さんに渡す。
「これで、兄ちゃんは、自分を見つめることができるな?」
「何かを持っていたら、差し出さずにはおられなんだ。」
「だからおいらは、兄ちゃんから徳をもらった。」
「もう差し出すもんはなんもないでよ、人とのかかわり方、変えれ?」
「何かをあげて、満足すんな?」
――がんばります。
――僕は、見つめようと思っていた魚籠を渡してしまったので。
――何もすることがなくて。
――ぼーっと人生振り返ってみようとしたけれど。
――もう、すでに、何も覚えてなくて。
――覚えて、なくて。
――覚えてないから。
――もう一度、生まれるのか。
――僕は、眩しい光の下へと、急いだ。
徳がいっぱい入っていた魚籠のイメージはこれです。