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お母さん、会いに来たよ


どうしょうもなく疲れてしまった時、僕は…母のもとへと足を運ぶ

何を話すわけでもない

何を伝えるわけでもない

何を嘆くわけでもない

何を報告するわけでもない

何をするわけでもない

突然訪ねた僕を、母はいつものように出迎える

母は、ただただ…僕に寄り添ってくれる

穏やかに、心地よく

力強く、たんたんと

変わることなく、のどかに

時に荒れ、時になぎ

抱きしめるわけでもなく

問いかけることもなく

追求するでなく

否定するでなく

母と対面して、自分と向き合う

偉大な母と対面して、自分の小ささを知る

失くした時も

手放した時も

諦めた時も

破れた時も

迷った時も

自分の悩みなど、小さなものなのだと

自分の嘆きなど、小さなものなのだと

自分の悲しみなど、小さなものなのだと

自分の過ちなと、大したことはないのだと

自分の失敗など、大したことはないのだと

母と会うために、この場所に来て

母と会うことで、立ち止まった場所から旅立つ

この、ちっぽけな僕を生み出した、母なる…海

母は、いつだって壮大で…命を育み続け

母は、いつだって悠大で…時を背負い続け

母の偉大な姿の前に、僕のこの身体を産んだちっぽけな母親の姿が霞む

今ごろ、小さな、小さな存在は…、些細な事に腹を立てては、耳障りの悪い言葉を喚いていることだろう

心地の良い、母の吐息に…しばし身を浸す

癒やされていく、自身の心に…そっと手を添える

繰り返される、波の音

止まることなく続く、波の舞

……会いに来て、良かった

「また、迷ったら、……会いに来るよ」

愛する母に別れを告げ、僕は自分の生きる場所へと、向かった


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たかさば
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