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そうめんVSひやむぎ、そして大乱闘へ…

梅雨の明けた、最高気温39度越えのお昼。

ミンミン、ジージー、ジャワジャワジャワ、セミの鳴き声に混じって聞こえてきたのは…。

「チッ…そうめん、貴様…麺類のプライドってもんがねーのかよ」
「…プライド?」

「オメーは毎度毎度…さっさとゆで上がりやがってよぉ…」
「僕は細いからね、もたもたしてたらあっと言う間に伸びてしまうから」

「ハッ!!根性なしな所が実に気に食わねえ…。麺なら最低でも五分はぐつぐつ煮られろってんだ!」
「ひやむぎ君、いくら奥さんになかなか食べてもらえないからって…、ひがんでディスるのはやめてくれないかな?…みっともないよ?」

……そう言えば、最近そうめんばかり作っている気がする。

梅雨の頃は、すりおろし生姜をはじめとする薬味をたっぷりいれたひやむぎを好んで食べていたのに。

「ぬぅあんだとぅ?!コシのないブチブチ野郎がいっちょ前に文句たれようってのか!!!てめえ小麦麺連合の端くれにも置けねえ奴だな!!!」
「何その言葉遣い。同じ小麦麺として恥ずかしいよ…、語句の使い方も知らないんだね。それを言うなら風上に置けないって言うのさ。やっぱり中途半端に図太い奴ってのは…本当に繊細さに欠けるというか、適当というか」

「てめえこそ何二重表現かましてくれちゃってんだよ?!それを言うなら言う?!しつけ―んだよ!!さすが同じ重量で倍の本数を出してきやがるそうめんらしいこったな!!!ふん、束になってかかってきたところで秒でふやける奴が粋がってんじゃねーよっ!!!」
「君だってものの十分でふやけるくせに。そういうのを目くそ鼻くそっていうんだよ。うどん君やきしめん君を見習いたまえ!彼らは実に長い間湯にもまれ、それでもなおコシを秘めており…」

「はあん?!ぶよぶよのやつだっているだろうがよ!!白玉うどんを見ろ!!伊勢うどんを見ろ!!あいつら小麦粉の矜持も忘れやがって、つるつるとした食感だけ誇りやがって!!!」
「小麦粉の矜持って(笑)君ね、無理して難しい単語使うと無知がバレるよ?ちょっとカッコいいからって正しい意味も知らないで使うとか憐れでならないよ。小麦粉は何もコシが出る事を誇っていたりはしないんだ、君の勝手な思い込みで物を語るのはやめてもらおうか」

……どっちもわりかし怪しい国語力だなと思わないでもない。

語学の専門家でもない、ましてや人ですらない麺類なんだし…意味が伝わればそれでいいじゃんと思ってしまう私がここに。

「いいや俺は言わせてもらうね!!!小麦粉が小麦粉たる誇りを忘れちまったからすいとんのヤローはこの世から姿を消したんだ!!!一時期あんなに食われてたくせに、今や片田舎で食されるだけの…」
「それは群馬県を馬鹿にしているのでは?!すいとんは立派な郷土料理だろう!!君こそ同じ粉モノ連盟の一員として仲間を愚弄するつもりか!!」

そういえば、子供たちが小さい頃はよくすいとんを作っていたなあと思い出す。

あー、今年はすいとん食べたいな。
ぜんざいに入れてもスープに入れても鍋に入れても何に入れても美味いんだよ、あれはさ……。

「まあ、まあまあまあまあ!!!おなじ麺類という仲間じゃない、そうカッカしないで、仲良く…ねっ?」
「セモリナ軍団は黙っててもらおうか!!!これは小麦の小麦たる矜持についての…」

シンのない筒状の貴方に麺類を名乗る資格は…ない!」
「ひどい…セモリナだって、同じ小麦よ?!ちょっと粒子は荒いけど、GI値だって変わらない仲間じゃない!!シンがないってどういうこと?!私にだって美味しく食べてもらいたいと願う心ココロはあるのよ?!」

「おい!!俺のマカロニになんて口きいてんだよ!!テメーら…、あんまりオイタが過ぎると…イカスミで和えちまうぞ……?極太スパゲッティを…なめんなよ…?」
「ふん!!あんな野蛮で汚らしい、食う奴を選ぶ磯クセえもんに和えられてたまっかよ!!オメーらパスタ一族はなア!常に油まみれでぬるぬるしやがって、こってりカロリー過多で…うぜーんだよっ!!!」

「和食との相性も悪いですしね。和風パスタとか息巻いたところで、ムリムリ感がすごすぎるんですよ。意外と合うって表現に隠された、実はおいしくないって感想に気がつかないんですか?」
「なんだとゴルァ!!!表に…出ろや!!ボッキボキのバッキバキにしたるわっ!!!」

「ふん!!16分茹でのアルデンテ根性で…か弱いそうめん&ひやむぎの一本をコテンパンに折っていい気になるつもりじゃねーだろうなあ!!ダッセ―んだよ、心根がよぅ!!」
「やはり輸入物は粗暴ですね…さすが塩入りの湯でぐつぐつしてもピンピンしてるわけだ…」

「オメーらは本体に塩がたっぷり練りこまれてるじゃねーか!!!塩分ゼロ麺をなめんなっ!!!」

やいの、やいの!!
わーわー、どた、ばた!!

なんだこの大さわぎは……。
あと30分くらいでお昼ごはんの時間だし、早く収束してくんないかな……。

「このところ随分気温が上がって、エアコンなしのキッチンも暑いからなあ。奥さんもキッチンに長く滞在したくないんだろうね。この時期はやっぱりそうめんが一番人気だよ、うん……」
「そば君はまだいいじゃないか、七分かかるとはいえ頻繁にお呼びがかかるだろ?僕なんて20分かかるからもう半年もお呼びがかからないんだよ…?」

「味噌煮込みうどん君は冬に大活躍できるからいいじゃない」
「サラスパさんは通年で人気だから余裕があるのね。お優しい事で…。ペンネである私なんか真夏は全くお呼びがかからないのに。あーあ、私ももっとスリムに生まれていれば……」

「んも~、めんどくさいなあ、太いだの細いだの貧弱だの人気があるだのないだの…俺なんかただの粉なんだけど!!」
「僕なんかここんちの奥さんがパン作りにハマって一瞬で飽きたせいで、半年前からほったらかしなんだけど?」

「ヤバイ、僕一応二割は小麦粉なんだけど加わった方が…?」
「俺は十割そばだから他人事だな」

「私はベーキングパウダーだし、関係ないよね?」
「僕もゼラチンだから関係ないや」

「コーンスターチさん、あっちに行きましょう?ここは野蛮だわ!!」
「そうね片栗粉さん、冬に備えてとろみの研究でもしておきましょう…」

戸棚の中に収納されている、食品たちのボヤキを止めるには…。

騒がしい声をスルーし、キッチンにずかずかと侵入し、汗をふきふき冷たい水を出し、手を洗い。

「ふふ…今日も私を手に取りますよ……?」
「頼む奥さん、今日こそは俺を生姜&ねぎ入りのつゆと混じらせてくれっ……!」
「冷製パスタもいいですよー!」
「マカロニサラダとかどうかな?」
「クレープでも焼きませんか、ハンディクレープ機を使えば、クーラーの利いた部屋で作れますよ!」
「旦那さんは朝汗まみれでそばを茹でてくれるんだけどなあ…」

「「「私たちは真夏が過ぎ去るまで待ち続けますね」」」

………。

冷蔵庫の中身を確認して…うん、おかずは、たくさんあるな。

今日はバラの冷凍食品を全部使っちゃお。
新しいやつ買いに行きたいし。

私は、手早く米を研いで…電気ジャーの早炊きのスイッチを入れたのだった。

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