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駐車場

 ……早朝、朝六時。

 今日も公園の駐車場は…すっからかんだ。

 車一台停まっていない、見晴らしの良い光景。
 風が通り抜ける、気持ちのいい場所。

 やや大型の公園の収容台数100台を超える北側駐車場は、朝7時~夜8時までの開放となっており…今の時間帯は入り口が封鎖されている。

 朝早いから、誰も…車を停めていない。
 朝早いから、誰も…車を停められない。

 ……ビュゥッ!

 だだっ広い場所に、風が、吹いた。

 風の行く先を目で追うと……先ほどまで見えていなかった、モノが見えてきた。
 瞬きを二度ほどすると、何もない空間にピントが合って……透き通ったモノが見えてくる。

 ……今日も公園の駐車場は、いっぱいだ。

 車一台分も空いていない、みっちりと詰まった光景。
 風が窮屈に通り抜けそうな、圧迫感のある場所。

 駐車場の入り口が封鎖されているのをいいことに……自由に出入りするモノたちがいる事を知ったのは、二年ほど前の事だ。

 この、公園北側駐車場は、人ではなくなった者たちが集まる場所らしいのだ。
 夜8時~朝7時まで……人ではないモノたちが休憩所にしているらしいのだ。

 駐車場には、いろんな車がたくさん並んでいる。

 黒いの、白いの、でかいの、小さいの。
 軽自動車、普通自動車、電気自動車、カスタムカー、レトロカーにトラック、ダンプにバス、カートにバギー、遊園地でよく見るバッテリーカーなんかもある。

 自分の車にいろんなおみやげを詰め込んで、ドライバーは旅立つのだろう。
 この場所で思い出を確かめて、ドライバーは人生という長い旅の終わりを知るのだろう。

 車が多くて…息が詰まりそうだ。

 こんなにも旅立つ人がいるのかと…いつも驚く。
 こんなにもすがすがしい朝なのに…気が滅入る。

 決して風と連動しているわけではない、何一つ世界に影響しない、ただの…光景。
 吹き抜ける風があることにすら気づかない、命のある世界から消えた、ただの…名残。

 ……音一つたてずに、車が動き出す。

 駐車場の出入り口を無視した、自由で規律のない…旅立ちが始まったのだ。

 毎朝この時間帯になると、風もないのに忙しなく…駐車されている車が移動を始める。

 すっと上に浮かんで消えるモノ、斜め上方向にゆっくり移動するモノ、生垣を無視して突っ込んでいくモノ、駐車場の路面方向指示に従って律儀に出口から出て行くモノ……。

 あんなにも駐車場に几帳面に並んでいるのに、旅立つ時は…バラバラなのだ。

 ……風が吹くたびに、駐車場から車が出ていく。
 ……風が吹かなくても、駐車場から車が出て行く。

 生者には思いつきもしない、何かのルールが存在しているのかもしれない。
 亡者にとって当たり前の、何らかのルールが存在しているのかもしれない。

 最後まで見たことがないから憶測でしかないが、おそらく7時までには、全ての車がいなくなるのだろう。
 夜に来たことがないから憶測でしかないが、おそらく8時が過ぎる頃から、車が乗り込んでくるのだろう。

 俺の横を、じいさんの運転する車が飛んでいく。
 俺の前を、ばあさんが乗った車が滑っていく。
 俺の頭上を、若者が乗ったバイクが跳ねていく。
 俺の足元を、中年が乗ったトラックが潜っていく。
 俺をめがけて、スクーターに乗ったおばさんが突っ込んでくる。

 おじさんおじさん、おばさんおじさん、おじさんおじいさん、おばあさんおじいさん…。

 手をつなぎあって、家族で飛んでいくものもいる。

 俺はそっと、小さく……手を合わせて。

 駐車場の見えなくなる場所へと、急いだのだった。

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たかさば
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