おそろしくてたまらない
だれしも、苦手なものというのは、ございますね。
…ございませんか?
ございませんという方、それはようございました、さすがです。
苦手なものがないという事は無敵ですね、強いですね、どうぞそのまま無双を誇ってくださいませ。
私は、苦手なものがございますので、おとなしく縮こまって世界の片隅で震えあがって生きていきます、今回はそういうお話です。
私の苦手なもの、それはズバリ、〇〇〇です。
ああ、わかりませんね、申し訳ございません。
もうね、文字にするのも嫌なんですよ、口にするのも嫌なんですよ、キーボードでたたくのも嫌なんですよ、ホントイヤなんですよ、うん、いやなんですよ。
それぐらい嫌いで嫌いで苦手で苦手でもうねホントどうにかなんないもんですかねどうにもなんないんですよなんてことですか、この世界は。
とにかく苦手な〇〇〇、こいつがもう本当にすさまじく私を攻撃してきやがるわけですよ。
もちろん、〇〇〇そのものが悪であることには間違いないんですけどね、この世の中には〇〇〇の片鱗を持つものってのが溢れていてですね。
そこらかしこに、〇〇〇の面影ってのがあふれているわけですよ、この世界には。
例えば、愛犬のふとした表情の中に、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、旦那の笑顔の唇の角度に、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、息子の前歯の輝きを見た時に、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、娘の遠くを見る眼差しに、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、自分の髪の毛の色に、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、お気に入りの人形の指の小ささに、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、マフラーを作ろうと毛玉を買いに行った先で、〇〇〇の面影が浮かんだり。
例えば、干支を聞いたときに、ズバリ〇〇〇の名詞が飛び出し当然のごとく〇〇〇の面影が浮かんだり。
ああ、恐ろしきかな、日本の〇〇〇。
ああ、恐ろしきかな、世界の〇〇〇。
ああ、恐ろしきかな、溢れる〇〇〇。
怖い、とにかく怖い。
恐ろしい、とにかく恐ろしい。
なにが怖いって。
あの小ささがまず怖い。
あの指の小ささがとにかく怖い。
そもそもパーツが小さくて怖い。
一瞬でプチってなりそうなのが怖い。
踏んだらぐちゃってなりそうなのが怖い。
両手でヒマワリの種を抱えるところがとにかく怖い。
つぶらな目でこっちを見るのが怖い。
小さな鼻がひくひくするのが怖い。
口がちょびっと開いているのが怖い。
ひげが生えてるのも怖い。
耳が前むいてるのも怖い。
たまに人っぽい表情するのが怖い。
予想できない動きをするのが怖い。
動かなくても怖い。
むしろ動かなくて生きてるのか死んでんのかわからない状態が一番怖い。
しっぽがだらんとしてるのも怖い。
しっぽだけやけにヌーディーなのも怖い。
足も怖い。
全部怖い。
とにかく怖い。
怖い。
怖すぎる。
…勘弁してええええええええええ!!!
そりゃあね、129.3㎏も飛び上がるって訳ですよ。
いつから苦手になったのか、思い出してみようと思ったのでございます。
・・・。
確か、実家の裏庭の、下水のところに、大きな〇〇〇の親子がいて、それが初対面でございました。
確か、立ち食いうどん屋で働いていたころに、流しの隅に顔を出されて、目が合った瞬間に悲鳴を上げたのでございます。
駅構内の立ち食いうどん屋で、ド派手な叫び声をあげてしまった為に、駅員さんが飛んできて、なかなかのカオスになって大変なことになりました。
…あの時の駅員さんはずいぶん仲良くなってずいぶんケンカもするようになったな、あんまりいい思い出ないな、…なんてこったでございます。
初対面の時はそれほど怖くなかったような気がいたします。
…対面?
いや、私は対面はしていない、〇〇〇の並んだ背中を見ただけですね。
ああ、二度目の邂逅時、私は〇〇〇と目を合わせてしまったのだ、あれが初対面でございますね。
おそらく、目を合わせてしまったときにはもう、私は〇〇〇が苦手だったのです。
おそらく、目を合わせてしまったときにはもう、私は〇〇〇が嫌いだったのです。
なんで苦手なんでしょうか。
なんで嫌いなんでしょうか。
どうもいまいち、動機がはっきりしないのでございます。
〇〇〇と、私の接点はほとんどございません。
触ったことも飼ったことももちろんございませんし、近くで見たのだって下水と流しの二回のみでございます。
ペットショップに行った時でさえ、私は〇〇〇のいる空気を敏感に嗅ぎ取って一ミリたりとも同じ空間に存在することを拒んでおります。
何が原因なのでしょうか…?
いつも私に意地悪をしていた同級生のお気に入りが〇〇〇モチーフのキャラクターだったからでしょうか?
いつもやりたい放題責任全被せのわがままな祖母の干支が〇〇〇だったからでしょうか?
いつも見ていたアニメの主人公が我を忘れて地球を破壊しようとするほどの〇〇〇嫌いだったからでしょうか?
いつも読んでいた漫画のわき役が気絶するくらいの〇〇〇恐怖症だったからでしょうか?
どれもこれも、決定的要素になるには、ずいぶん薄い、薄すぎます。
そんなことを、ぼんやりといつも思いながら、ぼんやり生きてきたのでございます。
そんな、ある日、私はずいぶんぶりに、叔母に会うことになったのでございます。
「茜ちゃん、久しぶり~!」
「久しぶり…げえ!!!」
「げえって何!!!」
久々に会う叔母は、なんと〇〇〇の描かれたトレーナーを!!!着用して、おりましてええええええ!!!
ひいいイイイイイいい!!
目を合わせるのが、きついいイイイイイ!!!
「ああ、ごめん、ええとね、うん、ちょっと、そのう…ねえ、この部屋寒くない、上着来たらどお!!」
「何言ってんの。」
明らかに挙動不審な私でございましたが、懐の広い叔母はさほど気にしていない様子でございました。
「ええとね、うーん、そのう、ちょっと服が苦手な分野で、ええとー!!」
「なに、まだきらいなの、【ピ―――】」
※一部音声視覚加工を施しております※
・・・まだ?!
「何それ、何か知ってるの、ねえ、何知ってるの、私に何があった!!」
叔母に聞いてみたところ。
なんと私はですね。
その昔、幼いころに、かじられた経験があるらしいのです。
病院行って大変なことになったらしい・・・全然知らなかったので、ございます。
ご丁寧に、指と耳をかじっていった〇〇〇、後日捉えられて、処理をされたらしいのですが。
「あの頃はさあ、くっついてるのを踏んでつぶして焼却炉で焼いて。めっちゃ怖がってたの、覚えてないの?」
「全然覚えてない。」
覚えてなくてよかったと心底胸をなでおろしたわけですが、私の体は覚えているに違いないのでございます。
その証拠に手が細かく震えておりましてですね、状況を思い浮かべただけでこの恐怖感、もはやどんなホラー映画も敵うまいと思った日が、ございましてね。
自分の過去に底の見えない恐怖を感じた私は、今後一切状況を思い出さぬことを心に誓った日があったという事なのですけれども。
混乱が凄まじいのです、おかしな文章はその証拠、時系列がちょいちょいおかしいのは◯◯◯、◯◯◯のせいですすべからくやつが悪い悪すぎる悪くてたまらないどっか行け消滅しろでございます。
今回、〇〇〇について文字をしたためようと思うにあたりまして。
私は心に誓ったことを、思い出すことになってしまいましてですね。
相当に恐怖感がですね、どうにもこうにもあふれ出してしまいましてですね。
それはもう、普段のべしゃりを綴れなくなるほどに多大なる影響を及ぼしましてですね。
ええ、それでこのおかしな口調です、誠に申し訳ございませんですってね。
ああ、本当に罪深い〇〇〇、私の前に絶対現れないでください。
恐ろしい、ああ恐ろしい。
とにかく本当に恐ろしくてたまらない、そういう存在がこの世界にはあるという事が言いたくてですね。
勇気を振り絞って恐怖というものを知らしめてみたのでございます。
勇気をもって、恐ろしさをしたためてみたのでございます。
勇気、勇気、勇気があれば、何だってできる!!!
できるかもしれませんけども!!!!
私は、〇〇〇の中を埋める文字を、ここに打ち込む勇気だけは、持てなかったのでございます。
ですので、ここでは、私が何を恐ろしいと思っているのか、明らかにすることはできないのでございます。
大変にお見苦しいエッセイではございますが、ご笑納いただければ幸いでございますです。