帽子
頭のでかい私が愛してやまないもの、それは帽子。
でかい頭にかぶれない帽子は数多くありますけれども。
でかい頭にかぶれる帽子だって、ありましてよ、ええ。
とりわけいつもかぶっているのはキャスケット。
若いころから大好きで、帽子屋を見つけては探して回って。
おかげで未だかぶり切れていない帽子が結構あったりして。
キャスケットの似合う年齢は少々通り過ぎてしまったけれども、そんなことは言われても聞く耳持たずで今でもかぶり続けていたりする。
ま、深く帽子かぶったらさ、意外と年齢なんてわかんないもんなんだって!
年を取ったらつば広帽子しかかぶっちゃいかんと、誰が決めたあああああ!!!
「このぼうしかりていい?」
息子が私の帽子をかぶっている。
今からどこかに遊びに行くようだ。
「へいよ。無くさないでね?」
「わかった。」
思えば息子も帽子好きだ。
生まれた時からしょっちゅう帽子をかぶせてたからね。
私は耳付きが大好きなので、いつもくま耳やねこ耳の付いたのを選んではかぶせていた。
冬は手編みの帽子をかぶせたもんだ。
小さくなった帽子はさ、記念に取っておこうと思ってね。
ガレージに段ボールに入れて、置いといたんだよ。
そしたらさ。
ネズミがね、いつの間にか住み着いててね?!
…ええ、アレはひどい事件でした。
思い出はネズミパラダイスになっていてですね!!!
いやいや、恐ろしい話だ。
旦那と娘はキャップ派。
つばの長めの帽子を好んでかぶっている。
二人とも頭小さいんだよね。
サイズが一緒だから、いつもキャップの取り合いをしている。
…なんで二つ買わないんだ。
もうじき夏なので、麦わら帽子を買いたいと思ってるんだよね。
麦わら帽子はさ、毎年使い捨ててるんだ。
洗えないし、汚れるし。
今年はどれを買おうかな。
去年はちょっと失敗しちゃってさ、どっかの体の伸びる船長みたいになっちゃって!!
結局息子がかぶってたんだよね……。
その前の年はフリンジがきつすぎてすぐに風にあおられて大変で…最後は結局、船の上から海にダイブして、そのまま漂流してっちゃったんだよねえ。
ああ、あの帽子は今いずこ。
今頃どっかの人魚がかぶってるかも知れない。
「ただいまー!ねえねえ!イイものもらったー!」
旦那が帰ってきた。
またどうせ賞味期限の切れたお菓子とかもらいもんの海外のお土産だとかそういうものに違いなかろう。
そう思って玄関に行くと。
「げえ!!なにそれ!!!」
「なんか麦わら帽子買いたいって言ってたじゃん、牧村さんの奥さんさ、アレンジやってるらしくて奥さんにどうぞってくれたんだよ!!かぶってね!!!」
確かに麦わら帽子だ!!
しかし!!!
つばの周りにはごてごてとゴージャスなレースがついてるし!!
帽子の横に、造花がたんまりついてる!!
ひまわりにバラ、あと葉っぱ!!変な実?もついてる!!
さらにピンク色のリボンがーリボンが―――!!!
こんなん、こんなん、かぶれるか―――――!!!
「かぶれるわけないじゃん!!こんなゴージャス帽かぶってクマモソのTシャツ着れるかっ!!!」
「着ればいいんだよー、せっかくもらったんだしさあ!!気にしすぎだって!」
あんたが気にしなさすぎだよ!!!
旦那は私の頭にゴージャスすぎる帽子を乗せて…あれ。
「ちょ、これ小さいわ。私頭でかいからほら、浮いちゃうよ。うん、返してこよう、無理無理。」
「返せるわけないじゃん!頭削ってよ!!」
「できるかっ!!!」
もー仕方ない、かくなる上は、旦那の作業者にこっそり忍ばせて……。
「ただいま―あれ!何それ!かわいい!!」
ああ、娘にあげればいいんじゃない?私がかぶりきれなかった麦わら帽子を、娘の頭にかぶせると…うん、ぴったりだ!
「ああ、これ君にあげます、大切にかぶってね。」
「いいけどさあ!あたしこの帽子に合う服持ってないよ!!」
そうだな、娘もいつもスポーツブランド系のTシャツかお笑い系Tシャツにジーンズばかりだったな。
「大丈夫だって、若いんだから多少の無茶してもみんなスルーしてくれるから。」
若者のファッションというのはね、いつの時代もこう、前衛的で攻めててね。
「そんなわけないでしょ!!ねえねえ、この帽子に合う服買ってよ!!」
「かわいい服持ってないんだったらさあ、買ってあげたら?」
なんも知らん旦那は気軽に言うけどね!!
娘は既製品サイズが入らないダイナマイト体型だから着られる服見つけるのも大変なんだよ?!
「じゃあ、今から店行って探してきたら。私はご飯作るからいけないけど。」
「わかったー!!」
娘と旦那は意気揚々と出かけて行った。
「「ただいまー!」」
あ、帰ってきたな。ちょうど枝豆も茹で終わったし、ごはんも炊けた、西京焼きももう焼き上がるし、豚汁はすでにテーブルに置いてある。あと息子がオムレツにケチャップかけたら完成だから、すぐにご飯にしよう。私が湯気の上がる枝豆をボウルいっぱいに盛ってテーブルに行くと。
「あれ、キャップまた買ったの。……服は!!!」
新しいキャップを買ったのか、二人ともド派手なのをかぶってる。かわいい服の入っている袋が見当たらないぞ、どうした。
「なんかサイズなくってさ!!お母さん作ってあげてよ!!」
「あたしフワフワのスカートがいい!よろしくー!」
完全に目的忘れて帰ってきたよ!!
「あんたらね!!帽子に合う服買いに行って違う帽子買ってくるとか何考えてんだ!!!」
「あ!!この豚汁美味い!!やっぱひき肉入りだと美味いんだって!!」
「オムレツチーズふりかけてー!あちあち!!枝豆ウマー!」
「おいしくできた。」
ダメだ!!!全然…聞いてねえ――――!!!
服を作るにしろ作らないにしろ、ゴージャスな麦わら帽子はまだしばらく出番はなさそうだ。
…仕方がない。
私はゴージャスすぎる麦わら帽子を、玄関の壁に飾った。
ここに飾っとけば、誰かが見てくれるはず。牧村さんが来るかもしれないし。
「ねーねー!魚焦げてない?」
ヤバイ!!
私は急いで、キッチンに戻って…焦げた西京焼きを皿の上に、のせたのだった。
こんな感じのやつです。
ステキだけど、絶対かぶれない……。