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俺、生まれ変わったら【宝石】になっとるがな…
……俺は、宝石。
銀座の一等地の宝石専門店の、一番奥にあるショーケースの中に佇んでいた、ダイヤモンドだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、とにかく金に縁のない男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、宝石になりたい」
そう願ったのには、理由(わけ)がある。
宝石と全く縁のない生き方をして満足できなかったので、どうせなら宝石そのものになってしまいたいと思ったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…キラキラと輝く宝石に悪態をつきまくっていた事だけは忘れられなかった。
たかがアクセサリーごときに大金を払うばかばかしさを声高らかに語った事と、価値を見出せないほど貧しい生活から抜け出せなかった悔しさだけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――とにかく一番高いのをくれ!!
俺を購入したのは、土地ころがしで大金を手に入れた、品のない男だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
金の使い方を知らない成金は、高額な品を買い込んではありえないほど下品な振る舞いをしていて…我慢ならなかった。
指という指に貴金属をはめ込むだけでは飽き足らず、前歯を削って俺を埋め込み事あるごとに見せびらかされる…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――社長、いい加減現実を見たらどうなんです
苦言を呈するマネージャーと、聞く耳を持たずにふんぞり返っている…成金。
まず一番初めに処分すべきは華美な装飾品や芸術品であり、土地ではないと…切々と語る、有能な部下たち。
俺は願った。
「そろそろ第一線を退いても良い年齢だし、若手に後を任せてワンマン社長を辞め、隠居して欲しい」
そう願ったのには、理由があった。
クセが強い人物ではあるが、社長は義理人情に厚い人物で、多くの人が昔世話になった恩を返したいと…本心から願っていたからだ。
己の残したいものを、あれもこれもどれも必要ないと判断され…どんどん機嫌が悪くなっていく。
子供のように意地を張っては趣味の悪いコレクションに執着して大金をつぎ込み、ますます資金繰りが苦しくなっていく現状が、心をえぐり続ける。
……今ならまだ間に合う、収集欲を手放し自分の過ちを認め…若手に頭を下げて、丸く治めるべきだ
―――うるさい!!俺の金を俺がどう使おうと、関係ないわっ!!この守銭奴がっ!!会社の事なんか…知るかっ!!!
成金社長は…つまらないプライドを捨てることができず、多くのものを失った。
現金だけでなく、人間関係も、家庭も、会社も、土地も、ほとんど手放した。
捨てることができなかったお気に入りの貴金属と、自分ひとりしか住んでいない豪邸だけが手元に残った。
俺の願いも…むなしく。
電気もガスも水道も止まった豪邸で、元成金の老人は…暖を取るために図鑑を燃やした。
真冬の乾燥した空気が割れたガラスから流れ込んで炎に勢いを与え…やがて燃え広がり、夜空を真っ赤に染めた。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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