食欲
新緑の季節がやってきた。
公園のいたるところに生える、緑の草。
柔らかそうな緑の草を見ると、なぜか無性に腹が減る。
自分は昔、ヤギだったのかもしれない。
自分は昔、羊だったのかもしれない。
無性にあの緑色の草を、食みたくなる。
……昔、私は草を食んでいたに違いない。
根拠はないが、そう確信した。
コンビニでフレッシュサラダをたんまり買って、帰路についた。
レストランにやってきた。
店内のいたるところで湯気をあげる、香ばしい肉。
柔らかそうな肉の匂いを嗅ぐと、当然のことながら腹が減る。
ジューシーな肉汁が溢れる赤い断面を見ると、よだれが出る。
自分は昔、ライオンだったのかもしれない。
自分は昔、トラだったのかもしれない。
無性に血の滴る肉を、食みたくなる。
……昔、私は生肉を食んでいたに違いない。
根拠はないが、そう確信した。
来週の給料日には最高級レアステーキを食うぞと心に誓って、ハンバーグを口に入れた。
ジャーの中にみっちり詰まる炊き立てのご飯を見ると、腹が減る。
ホカホカとした白い米粒、キラキラ輝く食べる宝石。
湯気を吸いこみ米独特の香りを感じると、なぜか無性に泣きたくなる。
自分は昔、日本人だったのかもしれない。
自分は昔、ご飯好きだったのかもしれない。
無性に米を、かきこみたくなる。
……昔、私はてんこ盛りのご飯も食んでいたに違いない。
根拠はないが、そう確信した。
次の休みは久しぶりに日本人を食べようと決めて、味のしないご飯を口に押し込んだ。
いいなと思ったら応援しよう!
↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓
https://mypage.syosetu.com/874484/
↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓
https://note.com/takasaba/