元気な医者、そうでもない医者
思いがけず外科手術を行う事になった。
歯が根元から折れてしまったので抜歯する事になったのだが、あごの骨と歯の根っこが癒着しており一般歯科では太刀打ちできないことが判明したため、歯科口腔外科での抜歯手術が決定されてしまったのである。
「口腔外科は初めてですか!心配しなくても大丈夫、僕腕いいからねっ!」
「は、はは……!!!よろしくお願いしまひゅ……。」
やけに元気のいいゴリマッチョな口腔外科医が執刀医?らしい……。
小麦色の肌に白く輝く歯、ごつい指が豪快に口の中に差し込まれ、状態を確認されて力強く説明がなされる。
「ああー、これはそんなに難しくない案件ですよ!ごめんね、今抜歯が立て込んでるから、木曜になっちゃうけど予約入れていい?!」
「は、はは……!!!よろしくお願いしまふ……。」
すごいなあ、こんな筋肉だらけの体で、小さな歯を抜くのか……、どう見てもレスラーの骨をくっつけたりお相撲さんの皮膚を縫い合わせている方が似合いそうなんだけどなあ……。
「じゃあね!もう先に手術の同意書書いてもらいますわ!ええと今までなんかアレルギーとか起こしたことあります?…よし!他の歯は問題なしっ!」
「は、はは……!!!ないです……。」
手術同意書にサインをしながら、先生の声に耳を傾ける。レントゲンを確認しながら他の歯も見ているようだ、なんだいい先生じゃないの……。
「不安もあると思うけどね!ちゃんと麻酔しますし、経過も見ます、たまに腐っちゃうけどクスリさえ飲めば大丈夫だからね!」
「は、はは……!!!よろしくお願いしますです……。」
パワフルだし説明もちゃんとしてくれるし、良さそうな先生だ。
あとは木曜、きっちりと抜いてもらうだけ、だけなんだけど―――!!!
「じゃ、木曜四時半、準備万端でお待ちしておりますので!元気に来てくださいね!」
「は、はは……!!!よろしくお願いします、はい……。」
治療が必要な患者に対して元気に来いとは…ややもにょらないでもないが、まあいい……。というか、私緊張しすぎてよろしくお願いしますしか言ってないな……まあいいか……。
かくして木曜、歯科口腔外科の受付に行った私を出迎えたのは……やけに貧弱な先生!?
ちょっと待て、この三日間で何があった、おかしなミュータンスにでも筋肉細胞を破壊されて二回りも小さくなったとでもいうのか!!
「あ、こ、こんにちは、えっと、僕本日の執刀をさせていただく……。」
声が小さくて最後の方が聞こえない!!!
「あ、あの、この前見てくれた先生は…?同一人物じゃないですよね?」
「アッ、えっと…国重先生は……サポートについて……あとできま、す……。」
「じゃあ、手術の準備しますねー!」
もごもごしている先生の声を遮るように、強気な看護師さんがやってきて!!エプロンを装着され、顔の上には穴の開いた布―!!!
「説明終わったー?!よーしじゃあやるかっ!!はーい、心配しないでね!!麻酔しますよぉ!!!」
「お、お願いしまふ……。」
布の下で、返事を返すと……。
「水野先生、そっちじゃないです。」
「アッ、ごめんなさい…ありがとうございます……。」
「ははは!水野先生こっちもね!」
「す、すみません……。」
「はい、みんな入ってー!歯根ほにゃららのなんちゃらによるうんたらかんたら~!」
「失礼しまーす。」
「あ、詰めてもらって良いですかね?」
「はい、ここみてね、このふんたらかんたらはね、うんぬんかんぬんで気を付けて…、あ、まだ早い、ゆっくりゆっくり!」
「この場合は?……そう、正解!どうのこうのがうんちゃらかんちゃらなので、いいね!」
アアア、この感じ、非常に身に覚えが……ある!!!
娘を出産した時に、研修医が病室にずらりと並んでベッドを取り囲んだあの感じに!!とっても!!!
今、わたし、モルモットに、なってるゥううううう!
口を開けたまま、逃げ出す事もできず、されるがままの、私、わたしぃいいいいい!
たくさんの研修医の皆さんに見守られながら縫われた歯茎は、それはそれはきれいに傷が治ったという、お話ですよ……(。>д<)
歯医者さんにはいつもお世話になってます、はい…。