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ホラーナイト


 とあるテーマパークで、ハロウィンのイベントとしてホラーナイトが開催されることになった。

 仮装OK、ダンスあり、日が沈んでから夜9時までのお楽しみ企画である。

 大人も子供も、男性も女性も、みんなが楽しめるお祭り騒ぎ。いつも以上に入場者が集まり、賑やかに盛り上がっている。

「みてみて、あの子カワイイ!」
「キャー!怖すぎる!」
「写真良いですか?!」
「すごいの来たー!」

 テーマパークが用意したゾンビ、ハロウィンメイクのキャラクターが人気なのはもちろん、仮装して参加している一般客もかなりレベルが高い。
 プロもシロウトも、スタッフもお客さんも…フルパワーでイベントを楽しんでいる。

 おばけ、ミイラ、ゾンビ、宇宙人、ヒーロー、ヴァンパイヤ、狼男、魔法使い、着ぐるみ、お姫様、執事、スーツに着物にマントにドレス…。
 オレンジ色に紫、キラキラ輝くラメ、電飾、蛍光色にパステルカラー、眩しい輝きにやさしい灯り…。
 濁った色、鮮やかな色、パワフルな色、透明感のある色…。

 見ず知らずのもの達が、時にすれ違い、時に向き合い、時に並んで、時に立ち止まり、時に混じり合い…共有する、今という瞬間。
 沸き立ち、集結し、はしゃいだ感情が弾けている。

 なんというパワフル!
 なんというエネルギッシュ!
 なんというパリピ!
 なんというファンタジー!
 なんというフレンドリー!

 ……この、生命力に満ち溢れた空間を…皆が楽しんでいるというのに。

 時折見かける、どんよりとした……疲労感。
 会場の端でくすぶる、重たい……オーラ。

 どうしてこんなにも、空気が読めないのか。
 どうしてこんなにも、場違いな事に気が付かないのか。

 みんなが笑っているのに、仏頂面で。
 みんなが笑っているのに、イライラして。
 みんなが笑っているのに、イビキをかいて。

 なんという恐ろしい……。

 恨みをつのらせていた魂ですら、あんなに弾けているのに。
 憎しみから生まれた化け物ですら、こんなに踊り散らかしているのに。
 悲しみに押しつぶされた幽霊ですら、あんなに歌っているのに。
 策略で凝り固まった宇宙人ですら、こんなにわれを失って盛り上がっているのに。

 ……とんだ興ざめだ。
 楽しめないなら、来なきゃ良いのに。

 あんな顔で同行しても、悪印象しか生まれないのでは?
 こんな態度で参加しても、嫌われるだけなのでは?

 こういうとこだよ、こじらせ傾向の強い魂ってのはホントタチが悪い……。
 つまらない部分に囚われていたら、あっという間に楽しい時間が終わってしまう…よし、スルーだ、スルー!

「ん゛ま゛ぁ~!」
「フヒヒヒヒヒヒ!」
「血ぃスゥたろか♡」
「うらめしやー」
「ギャアアアアアア!」

 みんな、心の底からはしゃいでいる。

「がぶー!」
「ギャ~!食われた!」
「やだー!」
「アハハ!写真とっちゃお!」

 ちょっとくらい本気で噛んでも…バレないハズ。

 小腹が空いたと思っていたんだ。
 ちょうど良かったよ……。

 明日も明後日も、思いっきり楽しむ事を誓った僕は。

 不味そうなつまらない命に背を向けて……、パワフルな渦の中に、紛れ込んだのだった。

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たかさば
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