青ペン
月末、私は青いペンを…手に取る。
ペン先の少し柔らかい、筆タッチで線の引ける、ボディもフタも青い、水性ペン。
このペンと私の付き合いは、ずいぶん、長い。
出会いは、かれこれ20年前…アパートから引っ越したばかりの頃のことである。
愛用していた【請求書在中】のスタンプを郵便局に出向いた際に紛失してしまった私は、文房具売り場のスタンプコーナーに出向いたものの【請求書在中】のスタンプだけ見当たらず、仕方なしに手書きで対応することを決め…急遽購入したのだ。
手書きの請求書を送付する取引先は一軒だけなので、なんとなくスタンプを買いそびれてしまって…現在に至る。
【請求書在中】のたった5文字を毎月書き続けてきた青いペンではあるが、長年使っているというのに…インクが切れる気配は、ない。
5文字が1年で12回、20年分で240回、つまり1200文字書き続けてきてなお、みずみずしい青色を見せ付ける、けなげでスタミナのある、ペン。
…私はもう、すっかり体力が落ちてきてしまったというのに。
絵を描くスピードが落ち、なんとなくデザインがマンネリ化し、量もこなせなくなってきた。
パソコンが壊れたらやめよう。
タブレットが使えなくなったらやめよう。
スキャナが読み込まなくなったらやめよう。
めがねを買い替えたらやめよう。
仕事でミスをしたらやめよう。
いつやめようか、この仕事が終わったらもうやめると言おう、引き際を探りながら…今月も納品をして、請求書を出した。
・・・青いペンのインクが切れたら、やめようか。
そんなことを思いながら、手元にあるラフ用のB5のコピー用紙に落書きをしてみる。
【請求書在中】の文字しか書かせてもらえなかったペンは…意外にもスルスルとした心地の良い書き味で、おかしな絵を描いた。
ねこ、子供、ハンバーグ、車、迷路、ベタフラッシュっぽいものにテレキネシスポーズの左手、武士の子供型ロボットに芋を掘るロボット、空を飛ぶヒーローといちゃいちゃするアイドルに…ああ、もう描く場所がなくなってきた。……これはまだまだ相当、請求書を発行する必要がありそうだ。
私は落書きだらけの紙を…戸棚の本の上にそっと載せ。
「六月号のテーマは…梅雨とカタツムリ、父の日だったかな。そろそろネタも尽きてきたなあ、今年はどんなギャグを盛り込もうか…」
今月分のイラストラフを描きはじめたのだった。