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風は雪だけを連れ去り、私を置いてゆく

 ……雪が、降っている
 ふわり、ふわりと

 …雪が、降っている
 細かな雪が、舞っている

 雪が、降っている
 強気な風に、吹き飛ばされる、雪

 雪が、降っている
 十字路で、風を受けて、舞い上がる、雪

 風が交わる場所で、雪が狂ったように流されてゆく
 風が混じる場所で、雪が荒々しく空に散ってゆく

 雪が、飛んでゆく
 風に乗って、瞬く間に

 雪が、飛んでゆく
 風に煽られて、空高くへと

 雪が、飛んでゆく
 風に追われて、はるか彼方へ連れ去られる、雪

 雪が、飛んでゆく
 風にかき混ぜられて、闇夜を白く染める、雪

 風は、どんどん強さを増してゆく

 人は皆、寝静まる、この時間
 街灯だけが、煌々と輝き、舞台を照らす

 雪が、冷たい風を受けて、飛んでゆく
 冷たい風は、降る雪を捕らえ、強引に連れ去ってゆく

 風が…雪を、蹴散らす
 風が…雪を、翻弄する

 風が…雪を、眠らせない

 風が強すぎて…雪は地面に積もれない
 欲張りな風が、全ての雪を、空の彼方に連れ去ってしまう

 ……ああ、今夜は、雪が…積もらないかも、知れない

 薄汚れた大地を包み隠す、真っ白な、雪
 薄汚い私を包み隠すはずの、真っ白な、雪

 こんなに強い風が吹いているのに、私の体はピクリとも動かない
 風は、私を…連れ去っては、くれないから

 私は、雪では……ないから

 こんなに雪が降っているのに、私の体は少しも隠れない
 風が、私に積もるはずの雪を、連れ去ってしまうから

 ……ああ、私も、雪に、なれたら

 あの人のところに、いけるかもしれない
 あの人のもとに、飛んで行けたかもしれない

 ……ああ、私は、雪に、なりたい

 あの人のところに、いきたい
 あの人のもとに、飛んでいきたい

 あの人はもう、飛んでいってしまった
 あの人はもう、器を残して、はるか彼方に、消えてしまった

 ……ああ、私は、雪には、なれない

 私は雪のように…風に乗ることは、できない

 冷たい、冷たい雪が…流れてゆく
 冷たい、冷たい風が…吹いている

 私の、重い、重い…体
 私の、重い、重い…罪

 地獄に沈んでゆく私は、風に舞う雪を見る事しか、できない
 地獄に落ちる私は、風に舞う雪を見上げる事しか、できない

 白い、白い雪が…闇夜に、映える

 強い、強い風が…紅色の芳香を吹き飛ばす

 白い、白い雪が…紅い色に、映える

 強い、強い風が…私の感情を、吹き飛ばす

 ……見上げた白の狂乱が、少しだけ、和らいだ気がする

 ……荒れ狂う雪と風が、少しだけ、私の頬を撫でた気がする

 ……ああ、私に、雪が、積もる
 ……ああ、私に、雪が、積もってゆく

 ふわり、ふわりと、闇夜に舞う、白い雪

 血に染まった私に、白い雪が優しく積もってゆく

 地に堕ちた私に、白い雪が温かく重なってゆく

 ……雪が、降っている
 ……ふわり、ふわりと

 ……雪が、積もってゆく

 ……ああ、雪が、降ってくれて、良かった

 私は、安心して……目を、閉じた


儚い小さな雪の結晶が何億と集まる事でいろんなものを包み隠してしまうというシステム、なかなか感心してしまう…。

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たかさば
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