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教習所

ここは教習所。

幽霊が人を安全に乗りこなすために、必ず通わなければならないんだ。


免許無しで人に乗ることは不可能。

たまに無免許で乗っちゃう奴もいるんだけどさ、そんなことしたらあっという間に除霊師に見つかってあの世行きだよ。


僕にはそんな危険を冒す勇気はないな。

なかなか仮免までいけなくてさ、ただいま絶賛追加教習中の僕なんだけど。


「君ね、乗るからには、人をきちんと操れなければだめなんだよ。」

「分かってるんですけど、なんかおかしな方向に行っちゃうんですよね。」


乗るとさ、人って気分が落ち込んだりテンションが上がったり。

うまく感情コントロールしないと、振り切れちゃうんだよ。


「何で僕が乗ると命を投げ出したくなるんだろう。」


ついこの前も、教官と一緒に乗った人がさ、いきなり落ち込み始めて服着たまま海にずぶずぶ入って行っちゃって大変だったんだよ…。


「貴方の闇制御が下手なんですよ、もっとこう、半闇ハンクラ、半分闇を出すんです、急にフルに闇出したら弱っちい人間は参っちゃいますよ。」

「難しいなあ。」


早いとこ免許取って、人に乗ってあちこち出かけたいんだけどな。


「貴方免許向いてないかもしれないですね、適性検査、どうでした?」

「一応向いてない事はないって出ましたよ、周りを見る危機管理はAで、器用度がCでした。」


名所巡りにも行きたいんだよね、仲間に出会えるかもしれないし。


「もう成仏して生まれたほうがいいんじゃないんですか、そしたら自由に歩きまわれるし。」

「そんなことしたら記憶なくなっちゃうじゃないですか。恨みを晴らすまでは僕は生まれる気はないんです。」


人に乗って憎いあいつのもとに行って、あいつに乗って…フヒヒ!!!

この恨みは、あいつに乗るまで晴れることは…ない!!


「…あんまり恨みマックスになるとうまくいきませんよ、程ほどにね、じゃ、今日はこの人に乗って練習しましょう。」


僕と教官の前に、若い女性。うーん、女性かあ。ちょっと小さくて乗りにくいけど、我慢しないとね。


「じゃ、お願いしマース。」


僕はゆっくり女性の意識に自分の意識を重ねる。

……ああ、この女性もいらだってるのか、少し乗りやすそうだ。


「では、泣いてみて。」


よし、感情のコントロールを…。

ぽろり。


「うん、いい涙だね、よし。」


いいぞ!この調子で仮免まで一気に…!!!


「じゃあ、泣き止んでみようか。」


よし、感情を抑えて・・・あれ。なんか僕の闇が膨れ上がってきたぞ。

―――くやしい、なんでわたしが、わたしだけが。


「ちょっと、抑えて、闇出てるじゃないか。」

「は、ハイ…!!!」


―――私が泣かないといけない理由なんてない

女性から涙が溢れ出したぞ!!ヤバイ!!制御が!!


「ちょっと何やってんの!コレ事故だよ!!まずいブレーキが利かない、脱出して!!」

「え?うわ、わああ!!!」


―――ふ、ふふ、ふふふふうふふふふふふふ!!!

―――あは、あは、あはははははははははは!!!

―――ひぃ、ひひひひひひひひひひひひひひ!!!


「アアー…もう…人格崩壊しちゃったじゃないですか…。」

「ど、どうしたらいいんですか、ええと僕この人から降りられなくなっちゃいましたけど。」


乗っかってた女性の上から、動けなくなってしまった。むしろ…なんだ?女性の中に、引き込まれていく!!


「この女性、魂が暴発しちゃったんだよ。こうなったらもう入れ替わるしかない。」

「え?!ちょっと待ってくださいよ!僕がこの女性になるってことですか?!」


よく見ると…女性の体から女性の魂が出てきてる!!…うわあ、めっちゃ怨念がましい顔してるよ。


「まあいいじゃない、この人になって、君の恨み晴らして来れば。」

「なに簡単に事をまとめようとしてるんですか!!!」


女性の魂が、この体から抜けきってしまった。


「意外と、人は、つながっているらしいからね。」


ヤバイ、僕の意識が朦朧としてきた…。僕の魂が、全部、女性の中に…。


「そのうちこの女性の魂が、その体に乗るかもしれないだろう?そのとき入れ替わればいいじゃないか。」


「わたしは、あいつを恨んで・・・恨んで・・・?」


わたし?


・・・そうだ、私は。


今から自動車の教習所に行くところだった。


あいつが自動車学校の教官になったって聞いたから。

あいつに、教えてもらうために。

あいつに、なんで私を捨てたのか、教えてもらうために。

あいつに、なんで乗り換えたのか、教えてもらうために。


…あいつは、本当に、どうしようもない奴だな。


私の中の誰かが、にやりと笑ったような気がした。


免許証と言えば、これ。


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たかさば
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