見出し画像

日焼け


 良子は、自分の肌が日焼けで真っ黒なのが気に入りません。

 白い服も似合わないし、なんだか焦げているみたいでみっともないと思ってしまうのです。

 友達のあゆみちゃんは肌が白くてとても可愛く見えるので、それが羨ましくて仕方がありません。

 長袖を着て学校に行ってもなぜかいつの間にか黒くなってしまうので、夏が来ると本当に憂鬱でならないのです。

「良子はまさに夏の子供という感じがするね、健康そうで何よりだ」

 おばあちゃんはそう言って慰めますが、良子は悲しくなってしまいます。

 プールに行けば自分が一番黒く誰よりも目立っているし、写真を撮れば表情がわからないくらい顔の色が濃いのです。 ランニングシャツで腕を丸出しにしている将太と同じくらい黒いので、いつも真っ黒コンビと呼ばれるのも気に入りませんでした。

 夏休み、良子は海の近くに住んでいるシズカおばちゃんのところにお泊りに行きました。

 シズカおばちゃんは海の真ん前でペンションをやっていて、毎年お盆過ぎになるとお客さんが減るので、良子やいとこ、はとこたちを呼んでくれるのです。

 良子がペンションに行くと、ビーチパラソルのところに見慣れない子がいました。

「こんにちは…!」

「こんにち…は?」

 お父さんの仕事の関係で休みが取れず、お盆過ぎだけどどうしても海に行ってみたいという事で宿泊に来た、東京からのお客さんでした。

 オシャレなお母さんと、優しそうなお父さん、そしてセンスのいい服を着てクルクルふわふわの髪が揺れる、とびきりかわいい女の子…!!!

 良子は、都会の子というのは色もとびきり白いし、こんなにも違うものなのかと泣きたくなりました。声が高くて透き通っているし、言葉遣いも丁寧だし、水着だって良子のようにほつれのあるスクール水着ではなくて白いビキニだし、どうしても、その女の子と仲良くなりたいと思いました。

「海、初めて?あたしが遊び方、教えてあげる!」

「…良いの?ありがとう!!」

 良子は、海に入る時の手順、海の生き物、砂の掘り方、砂がつかないで甲羅干しができる場所、冷たい水が使い放題の井戸、ヤドカリのいる埠頭、水着で入れるアイスクリーム屋さん、キュウリを食べさせてくれる近所のおばあちゃんち、スイカの切れ端をおすそ分けしてくれる八百屋さん…いろんな場所を案内しながら、親交を深めました。

 全然知らない女の子と仲良くなって、まるで長年の親友のように…日が暮れるまで海で一緒に遊びました。

 晩ごはんがすんだら一階の談話室で一緒に1000ピースのパズルをやろうねと約束をした良子は、お気に入りの駄菓子を両手で抱えていとこたちと泊っている大部屋を出ました。

 すると、何やら…一階が騒がしいのです。

 シズカおばちゃんや親戚のお兄ちゃんがどこかに電話をしていて、慌ただしく出かけて行きました。

 待っていても東京の女の子は来ないので、いとこたちと一緒にジグソーパズルを広げていたらおばちゃんたちが帰ってきました。

「何かあったの?」

「うん、ちょっとね…」

 浮かない顔をしたシズカおばちゃんが教えてくれたのは、女の子が救急病院に行ったという事でした。

 日に焼けたことがない女の子は、日焼けのし過ぎで全身がやけどのような状態になってしまい、今点滴を受けているのだそうです。とても旅行を楽しめる状況ではないので、そのまま家に帰るのだとか……。状態が悪ければ入院していくかもしれないと聞いて、良子はびっくりしてしまいました。

「都会の子は…弱いのかねえ。良子なんか赤くもなってないのに…あの子、まっかっかになってたよ。かわいそうにねえ、日焼け止めも塗ったそうだけど…効かなかったのかねえ…」

 良子は、日焼けでこんなことになるなんて思いもしませんでした。

 あんなに憧れていた白い肌だけど、一瞬で怖くなりました。

 うらやましいと思っていた自分を、恥ずかしく思いました。

 良子は、自分の肌が黒くてよかったと、心から思いました。

↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/