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独り占め

分け合うのがあたりまえ

みんなが幸せ、みんなが楽しい

欲しかったら分けてもらう
いらなかったら分けてあげる

食べるものがたくさんある
食べたい人がたくさんいる
食べさせる人がたくさんいる

平和で穏やかで、全部ある世界があった

毎日同じなのがあたりまえ
みんなが昨日と同じことをして、みんなが明日も同じことをする

誰にでも分けてあげる
誰からも分けてもらう

みんなに分け隔てなく
みんなが分け隔てなく

変わらない、つまらない世界があった

同じ食べ物が、たくさんあった
同じ食べ物は、同じように見えてちょっと違った

ちょっとあまいの
ちょっとすっぱいの
ちょっとおおきいの
ちょっとつるつるしたの
ちょっといいにおいの

みんな、どれをもらっても喜んだ
みんな、どれを食べても喜んだ

いろんな人が、たくさんいた
いろんな人は、同じように見えてちょっと違った

ちょっとふといの
ちょっとちいさいの
ちょっともじゃもじゃの
ちょっとつるつるしたの
ちょっとうるさいの
ちょっとしわしわの

みんな、同じように喜んだ
みんな、違う顔で同じように笑った

ある日、小さい人が、とがった人に食べ物を差し出して、受け取ってもらった

喜んだとがった人を見た瞬間、小さい人はなんだか…不思議な感じがした

なんとなく、ぽかぽかするような
なんとなく、きゅっとするような
なんとなく、ぼーっとするような

みんなが喜んで、みんなが嬉しいのが当たり前の、この世界

小さい人は、たくさんの人がとがった人を喜ばせているのを見た
小さい人は、たくさんの人にとがった人が差し出しているのを見た

みんなが喜んで、みんなが嬉しいのが当たり前の、この世界

小さい人は、自分がとがった人を喜ばせたいと思った
小さい人は、自分だけにとがった人が差し出すことを望んだ

……みんなが喜んで、みんなが嬉しいのが当たり前の、この世界

小さい人の願いは叶わない
小さい人は願いを叶えたい

小さい人は、考えた
小さい人は、いろいろと考えた

小さい人は、食べ物を少しずつ溜め込んだ
小さい人は、食べ物を少しずつ捨てた
小さい人は、食べ物ができる場所を少しずつ壊した
小さい人は、食べ物ができる前に少しずつ捨てた

有り余る食べ物がなくなったら、私の食べ物をもらってくれる
私が食べ物を差し出したら、あの喜ぶ姿が見える

食べ物が少なくなったので、たくさんの人が自分の食べる分を探しに行き出した
食べ物が少なくなったので、たくさんの人が残っている食べ物を食い尽くしていった

食べ物がどこにも見当たらなくなった時、小さい人は、食べ物を隠している場所にとがった人を連れて行った

小さい人は、あのとき見た顔がやっと見えると…にっこりわらった

……でも、とがった人は
あのとき見たのとは違う、気持ちの悪い顔をしていた

あの時みたいに差し出すことをしないで、モグモグ、モグモグ、モグモグ…食べていた

あまりの気持ち悪さに逃げ出そうとした、その時、ものすごい風が吹き荒れた

腹を空かせた人たちが、一気になだれ込んできて……小さい人はチリになった

溜め込まれた食べ物はあっという間に食い尽くされて、無くなった
食べ物が無くなったので、たくさんの人がいなくなった

あれだけたくさんいた人は、今どこにもいない
あれだけたくさんあった食べ物は、今どこにもない
あれだけ平和で穏やかで、全部ある世界は、どこにもない

……今、この世界には、食べ物を求めて流離った人たちと、食べ物ではなかったたくさんの何かがあふれている

誰一人、昔の出来事を知らないくせに……、なんとなく、似たような事を、しているような、気がする

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たかさば
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