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これはイイちょりだ!
息子の髪の毛が、もさもさしてきた。
そろそろ…ヘアカットに行かねばなるまい。
「よし、君…今から髪の毛を切りに行きますよ!用意は宜しいか!!」
「はい」
ヘアスタイルにほとんどこだわりのない息子は、基本無頓着を貫いている。春休み、6月、夏休み、11月、冬休みと、おおよそ2,3か月に一回のペースで10分でカット完了の散髪屋へと向かう。
ヘアスタイルは毎回短めのスポーツ刈り、後頭部上部までバリカンで刈り上げる。もともと大変色素の薄い髪色で、伸びれば伸びるほどに茶髪っぽくなってしまうため、極力毛根や地肌を見せ付けるように短くしているのである。
「スポーツ刈りお願いします」
「長さはどうします?」
「短くお願いします」
「二ミリでいいです?」
「はい」
実に慣れた様子で、購入したカット券をスタッフさんに渡し、スマートに素早く簡潔にわかりやすくカットの注文をする息子。さすが小学生時代から足掛け8年通っているだけの事はあるな、貫禄が違う。
とはいえ若干得も言われぬ表情で鏡の中の自分と向き合っているのは…彼がくすぐったがりで、バリカンの感覚が苦手な為であろう。精神統一をして、頭を動かさないよう気を引き締めているに違いない。わりと大きく成長したけれど、こういうところは小さい頃から変わんないな。おそらくおっさんになってもこんな感じなんだろう。
ブーンという音がカット店の中に響き、イスの周りにふわふわと髪の毛が積もってゆく。見る見るうちに、もさもさしていた頭が…白っぽい地肌の目立つ坊主頭になっていく……。
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
あっと言う間に、触りがいのありそうなスポーツ刈りの完成だ。
…いいなあ、坊主頭はすぐにカットが終わるから。私もショートカットだけど、頭がでかくて面積が広いうえにボリュームがハンパないから結構時間かかるんだよねえ……。
「おお、今回もかなりいいちょりっぷりだね!!どれ、さっそく確認をば…うーん、これはなかなかいいちょりだ!!なんていうか、エッジの効いた尖ったちょりだね、これはなかなか…」
息子の頭部をぞりぞり撫でて、独特の手触りを楽しませていただく。
二ミリに刈り上げられた後頭部と、グラデーションのかかった少々毛足の長い頭頂部…実に見事にカットされている。
1200円でこの仕上がり、さすがプロは違うな。自宅で旦那がバリカンでセルフ坊主にする時に触らせてもらうと、ところどころ毛足がざらついているし、なんというか全体的にばらついているというか、ちょりが手を抜いているというか、とりあえず整列しとこうっていう手抜きを感じるんだよね。
「そう?」
ニコニコして撫でられている息子には、嫌がる素振りはない。ついつい…いつまでもちょりちょりと撫でていたくなってしまう。
……はたして私は、あとどれくらいこのちょりを堪能することができるのだろう。
オシャレに目覚めるのはもうそろそろだよね、伸ばしてパーマとかかけるようになるんだろうか、もしかしたら私みたいに金髪にするかもしれない、旦那の若かりし頃のようにロン毛にする可能性も高いな、ひょっとしたら娘のように伸ばしに伸ばしてヘアドネーションにチャレンジする可能性もある……。ああ、できるだけ今のうちに、このいいちょりを堪能しておかねばなるまい!!!
ちょり、ちょり、ちょりちょりちょりちょり……!!!
手が、手が…止まらん!!!
だがしかし、この人ごみの中で少年の後頭部を撫で続けるのは些か悪目立ちし過ぎる!!……気のせいか、すれ違う人たちの視線が集まっているような……。
「お風呂入って一晩寝たら、きっと極上のちょりに育つね!!いやー、明日の朝が楽しみだ♡うふん、機嫌がよくなったから、今日は君の好きな肉団子カレーでも作るかね♪よーし、食品売り場にレッツラゴー!!」
ちょりの触感が残る右手でスーパーのかごをギュウと握りしめましてですね!!
「行こう!」
息子と一緒に、カレーの材料に果物、デザートにお菓子、ジュースにアイス…その他もろもろ買い込んで帰宅したのであった。
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