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物語
ここに、一つの物語がございます。
ずいぶん魅力のある物語には、ずいぶん魅力のある登場人物がおり、ずいぶん魅力にひきつけられた私は、すっかり物語の虜となりました。
物語の中で、人々は生きています。
物語の中で、人々は生き生きと過ごしています。
物語の中で、人々は豊かな感情を楽しんでいます。
物語の中で、人々は様々な出来事に遭遇しています。
物語の中で、人々は人生を謳歌しています。
物語の中で、人々は人生を終えることもあります。
物語の中の人々は、そこが物語の中だと知りません。
私は、物語を知ることができます。
私は、物語を楽しむことができます。
物語の終わりは、物語の終わりにあります。
私は、物語が終わるまで、物語を堪能します。
物語が完結した後は、物語の余韻に浸ることでしょう。
物語の結末を心行くまで楽しむことでしょう。
この物語はこういう結末なのかと。
この物語の結末までに、いろんな出来事があったなあと。
この物語の中の出来事は、結末を迎えることができたのだなあと。
物語が終わってしまった後、私はどうしたら良いのでしょうか。
物語を思い出すのもよいでしょう。
物語を再びのぞくのもよいでしょう。
しかし、終わってしまった物語は、同じ結末を何度も繰り返すだけ。
見るたびに結末を変える物語など、どこにも存在していないのです。
何度覗いても、結末は変わらず。
何度覗いても同じ場所で同じ事柄が起き。
物語の続きを望んでも、物語の続きを知ることはできません。
完結した物語は、完結までの物語。
同じ登場人物が出てくる、別の物語がたくさんあります。
同じ世界観を持つ、別の物語がたくさんあります。
別の物語をのぞいたときに、同じ感想は出るでしょうか。
別の物語をのぞいたときに、同じ感想は出ないのです。
物語は一つの物語。
似たような物語もあるでしょう。
悲しい物語もあるでしょう。
信じられない物語もあるでしょう。
物語のできた背景に、何もない場合があります。
物語のできた背景に、別の物語がある場合があります。
物語はたった一つ。
どの物語も、登場人物はその物語の中にしか存在していません。
どの物語も、登場人物は別の物語に入り込むことはできないのです。
同じ登場人物が、違う物語の中にいても、それはすべて別の物語の中の登場人物。
同じ登場人物を持つ、たくさんの物語が存在しているのです。
けれど、その物語はすべて別の物語なのです。
たくさんの物語があふれています。
同じ登場人物を持つ物語がたくさん溢れています。
…この物語は、ずいぶん私を魅了しています。
私の知るこの物語の主人公は、ずいぶんおかしな生き方をしていて、とても滑稽で、目が離せません。
この物語は、ずいぶん誰かを苛立たせています。
誰かの知るこの物語の主人公は、ずいぶんおかしな生き方をしていて、とても腹立たしく、目を瞑りたくなります。
この物語は、ずいぶん誰かを優越感に浸らせています。
誰かの知るこの物語の主人公は、ずいぶんおかしな生き方をしていて、とても気の毒で、目に留まります。
この物語は、ずいぶん誰かを嫉妬させています。
誰かの知るこの物語の主人公は、ずいぶんおかしな生き方をしていて、とてもずるくて、目に障ります。
このおかしな物語は、自由にのぞくことができるけれど、すべてをのぞくのはたった一人です。
この物語を心から愛している、たった一人の誰かが、すべての物語を知ることができるのです。
物語の中の人は、そこが物語の中だと知りません。
けれど、私は、そこが物語の中であることを知っています。
なぜなら、私が、物語の中の主人公だからです。
私が、この物語の結末を知った時、私は、何を思うでしょうか。
続きを見たいと思わせる物語だと思うでしょうか。
納得できる結末だと思うでしょうか。
結末が近づいて、じたばたすることがあるかもしれません。
結末が近づいて、穏やかに流されることがあるかもしれません。
結末が近づいていることに気が付かず、突如物語が終わってしまう事も、あるのです。
主人公ですら知らない、私の物語の結末は、結末を迎えるまで、誰も知らない物語なのです。
結末がわからない物語の中で、私は時折誰かの物語をのぞいています。
結末がわからない物語の中で、私は時折物語を生み出しています。
私の生み出した物語の中で、登場人物たちが生き生きと物語を作っています。
私の生み出した物語の結末は、私だけが知っています。
私の物語もまた、誰かが生み出した物語であるのかもしれません。
私の生み出した物語に、私が幸せな結末を望むように、誰かが生み出した私の物語も、誰かが幸せな結末を望んでいるのかもしれません。
私の生み出した物語に、私は救いようのない結末を望みませんが、誰かが生み出した私の物語は、誰かが救いようのない結末を望んでいるのかもしれません。
私の物語が結末を迎えるまで、私は幸せな結末を迎える物語を、たくさん、たくさん生み出したいと、願っているのです。
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