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「hhいる」が、でたー!!

「うわ…またhhいるがー!」

 愛用している青軸のメカニカルキーボードの調子が、よろしくない。

 三年前に私のもとにやってきて以来、おおよそ1000万文字以上を叩き込まれ続けてきたキーボードさんは、ここにきて疲労困憊してしまったらしい。

 Mのボタンを押しても二回に一回はスルーだ。
 Hのボタンを押すとはりきり過ぎて連打になってしまう。
 キーのどいつもこいつも叩いた端から連打やスルーをお見舞いして下さる。
 心なしかバックライトの光り方も鈍くなっているような。
 あと最近やけにこう、スペースキーが吹っ飛んで外れるんだよね…。

 とりわけ私の心をささくれ立たせるのが「hhいる」である。

 毎日日記をつけているのだが、昼ごはんという見出しを打ち込むと「hhいる」になってしまうのだ。
 毎朝毎朝「hhいる」とご対面する日が続いており、地味に蓄積されたダメージがですね。

 エアダスターでだましだまし使っていたが、そろそろ我慢の限界だ…。

 地味によく使うアルファベットばかり不具合がでるので、非常に文字打ちの効率が悪い。
 イライラしながら文字を打つと文章もおかしくなりがちで、何度も見直しては書き直したりする羽目になり、これまた非常に効率が悪い。

 …ついこの間買ったばかりだと思っていたのに、時間というのはあっという間に過ぎてしまうものなんだなあ。

 あれほどピカピカで小気味よく打音を響かせていたキーボードは、よく見れば細かいホコリがかぶっているし隙間はホコリやお菓子のカスだらけ…うんそりゃあ具合も悪くなるわ。……今後はパソコン中は飲食禁止にしよう。たぶん無理だけど……。

 時間があるならキーボードの掃除をして様子を見るのもいいけれど、あいにくとやらねばならないことが山積みでのんびりと向き合っている暇がない。

 新しいキーボードを買いに行く事を決め、近所のパソコンショップへと向かった。

「すみません、青軸のキーボードが欲しいんですけど」
「こちらですねー、有線ですか?ワイファイ?」

「有線ので、カラフルなやつがいいなあ、暗闇でピカピカしてるやつ」
「あ、じゃあこれですね!」

 店員さんに差し出されたものを受け取って、そのままレジにてお買い上げ。パソコン店に入店してまだ五分とたっていない。

 私はあまりモノを買う時に悩まないタイプだ。
 欲しいものを見つけたらその場で買う。値段が高いとか安いとか気にしないで、店員さんにおススメされたものをそのまま疑いもせずに買う。
 ど素人がああだこうだと頭を悩ませたところで、結局何が違うのかよく分かっていないというか、悩んだり選んだりしてる時間がめんどくさいというか。

 ちなみに、旦那はパソコン屋に見に行ってさんざん店員さんに説明をしてもらったあと、購入しないで家に帰ってAMEZONで購入するタイプだ。わりかし細かいことにうるさい旦那は、ああだこうだと難癖をつけてはいつまでたっても新しいものを買わずに…壊れたものを使いにくいとぐちぐち言いながら、止めを刺すまで使い続ける。なんだめんどくさい人だな。

「よーし、じゃあ新しいキーボードに付け替えるか!」

 早速家に帰って不具合の多いキーボードをはずして…と。
 買ってきたばかりのぴかぴかのキーボードに付け替えて…電源を、オン。

 キーボードに電気が流れて、七色の光が穏やかに輝き始めた…。

 フフ…今回のキーボードはボディが白くて…なんか天国みたいだ。
 今までは真っ黒ボディで、バックライトのLEDがなんとなく地獄の炎っぽかったんだよね。

 これはさぞかし心が洗われるような素敵な物語が生まれるに違いない!

 さて…古いほうのキーボードはどうしようかな。
 ……一応取っておくか。

 もしかして急にキーボードが動かなくなってしまう可能性も無きにしも非ずだ。旦那が使えるキーボードが欲しくなるときもあるかもしれないし。
 随分前に作業中にいきなりキーボードが使えなくなったとかで、人のキーボードを引っこ抜いて持って行かれた経験を持つ私は用心深くなっている。

 たった今付け替えたキーボードの入っていた箱に古いものを入れ、クローゼットの奥において置こうと…。

 うん?あの箱は……、薄暗い視界の目の端にうつる、ちょっと派手な……。

 ……げえ!!
 古いキーボードが…ぐぬぬ、三つもある!!!

 ひとつはこのキーボードを買った時に取り外したやつ。
 不注意でキーボードひっくり返した時にUのキートップがなくなっちゃって使えなくなったんだった。でも軸の所を直接押せば使えないこともないから、一応取っておくかって思ったんだよね。

 もうひとつは先代のパソコンで使ってたキーボードがいきなりうんともすんとも言わなくなって、つなぎで急遽量販店で買った安いやつ。
 メンブレン式でなんかぬるぬるした打ち心地が嫌でしまい込んだんだった。でも使ったのは二日間くらいで、実質ほぼほぼ新品だから捨てるのも何だって思ったんだよね。

 一番奥にあるのは福袋の中に入っていたやつ。
 旦那が血迷ってパソコン屋で福袋買ったらパンタグラフ式のテンキー無しのキーボードが入ってて、小さすぎて使いにくくて持て余したんだった。でもそのうち子供たちがパソコン欲しがった時に使えるよねと思って取っといてあるんだよね。

 ムム……、このキーボードは、取っておかなくてもよさそうだ…。

 でもなあ、この人(キーボード)ダントツでお気に入りなんだよね…。

「hhいる」さえ出なければ、このキーボードが一番使いやすいし、一番手に馴染んでいるし、一番たくさん物語を打ち込んできたし、一番愛着もあっておしゃれで…。

 うん、やっぱり取っておくか。

 いつか掃除をする時間が出来るかもしれないし。
 案外分解掃除したら普通にまだまだ使えそうなんだよね。

 かくして私のクローゼットにはキーボードが仕舞われ、新しい相棒がモニタの前に鎮座する事になりましてですね。

「ええと、本日の昼ごはん…と……うん?!」

 カチャカチャと心地よい音を響かせながら日記を書いておりましたらですね!!

「hhいる」が……出た━(゜∀゜)━!!!

 ちょっと待て、これはもしかしてわたしの指先が衰えて……打ミスを引き起こしている?!

 思わず両手を広げ、キーボードの上で指先をもしゃもしゃと動かして、か、確認をばっ!!!

 それからしばらく、タイピングの練習サイトを巡る日々が続いたという事です……。


結局何がどう悪いのかよくわからないまま、時々現れる『hhいる』と未だに対面し続けているという噂…。

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