ちゃんとしんどい時、できることなんて僅かだから
泥のように暮らしていた時期がありました。
食事をとること。
お風呂で身体を洗うこと。
本の文字を追うこと。
部屋の隅に落ちている紙切れをゴミ箱まで運ぶこと。
買い物に出かけること。
そのすべてが億劫で仕方なくて、いつもなら5分で終わるようなことに30分、1時間と費やしながら、どうにかこなしていく生活でした。
友達から来る連絡には、いつもと変わらぬテンションで返信するか、その気力もなくてスルーしてしまうかのどちらか。
「ちょっと大変で」そんな言葉を送るのすら躊躇われて、寝るか動画を観るかゲームをするか、みたいな生活でした。
何もできなかった。
久々に外に出ると、季節が変わりつつあることに驚いた。
本当にしんどい時、できることなんてほんの僅か
美味しいごはんを食べればちょっと元気になる、のは知っていました。
でも、すてきな料理を作れるほど冷蔵庫の中は充実してない。
買い物に行くための着替えさえ時間がかかる。
映画や本を楽しむ体力さえ残ってない。
そういう時、一人になることを選ぶ人は少なくないんじゃないでしょうか。わたしもそう。
心配してくれる友達も、大切な趣味も、すべて置き去りにして、孤独を抱え込もうとしてしまいます。
一人になることは悪いことではない。ないけれど、間違いなくわたしは、一人になることで傷を深くしていた。
専門家に頼ったほうがいい。
何もできない自分を許そう。
話すだけでも楽になる。
いろんな声がわたしの中でこだまする。そしてそのどれもが、右から左へと流されていく。
本当にしんどい時、新しい情報なんて受け取れない。
自分にとってどれが必要なのか判断する能力さえ落ちるから。
新しいことに挑戦することもできない。
失敗したらそれこそ戻って来れなくなるから。
しんどさ、苦しさ、寂しさを感じたとき、その場でできることなんてほんのわずかなのだと思います。
だから知っておいてほしいのです。あなたの心と身体を守る方法を。
見たことある。やったことある。そういうものは、きっと選べる
「泥のように暮らす日々」を何度か過ごす中で、少しずつ対応策が分かってきました。
文字は追えないけど、本屋さんで過ごすのはなんだか落ち着く。
テレビや映画は疲れるけど、ラジオに耳だけ向けていると少し気が紛れる。
人に会う気力はないけど、友達と連絡を取るとやっぱり楽しい。
分かっている、やったことがあるものは、エネルギーがすり減った状態でも試みやすい、かもしれない。
それで上向くとは限らないが、「自分のために何か行動できた」ってことが、後のあなたやわたしにとっては、きっとプラスになる。
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以前は、心がざわつくと一人で江ノ島に行っていた。
エネルギーがある時は、夕日が綺麗なスポットまで歩いた。エネルギーがない時は浜辺ちかくの階段に座って海を眺めた。
肌寒さを感じて帰路につく頃には、心は少し落ち着いていた。
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いまはなかなか、外出して気分転換はしにくいけれど、近所の公園で5分目を閉じるだけでも、何か荷物を降ろせるような気がします。
行ったことのないところへ行くのには、勇気が必要。でも行ったことのあるところへ行くのには、ただ身体がひとつあればいい。
いつもは通らない道で駅に向かってみる。
知らないアーティストの音楽を聴いてみる。
頼んだことのないメニューを注文してみる。
突然外へ飛び出すのが怖いなら、まずはちょっとしたことから。
そうやって「見たことある」「やったことある」を増やしてみてほしいのです。
いつか泥のような日常に立った、あなたの手助けとなるはずだから。
一番しんどい時のあなたのために、どうか手掛かりを用意しておいてほしい。そう切に願います。