【たからうたストーリー】まわりみちしようか
神戸学院大学現代社会学部の岡崎ゼミでは、地域のたからもの、その出会い、語り、思いを音楽にする〈たからうたプロジェクト〉に取り組んでいる。
私たちのチーム(SIMARI)²がインタビューしたのは、神河町でOFFICE KAJIYANO(オフィスカジヤノ)という会社を経営している山口貴士・奈央夫妻だ。
山口夫妻は、結婚後、神河町に移り、2015年に起業。2016年にはコワーキングスペースを開設。お二人のライフスタイルの変化にも合わせて仕事や生活の形を少しずつ変えながら現在に至っている。
お二人は過去にバンドをしていたということもあり、今回は曲作りにも携わってくれた。
インタビューの後、まずはチーム全体でどんなキーワードを歌詞に入れたいかを話し合った。その結果をアヤヲさんと山田さんに伝えて、曲の方向性が決定。
取材のときに聞かせてもらった山口夫妻のオリジナル曲がゆったりとしたアコースティックの曲調だったので、当初はアップテンポの曲を考えていたが、お二人の雰囲気に合った曲を作ろうということになった。
みんなで曲をつくる
取材を終えると、山口さん夫妻から、「自分たちの作品をプロに編曲・アレンジしてもらえたらとずっと願ってきた。またとない機会なので、楽曲制作自体にもぜひ関わらせていただきたいです」という申し出があり、山口夫妻が作詞作曲、その原曲を山田さんとアヤヲさんがアレンジして楽曲制作を進めることに。歌と演奏はアヤヲさん、山田さんが担当することになった。
山口さん夫妻から届いたのは「まわりみち」という曲であった。私たちが挙げたキーワードをふまえて、ゆっくりと歩いて行く雰囲気のテンポ・リズムで曲を考えたという。山口貴士さんは俳句が趣味なので、歌詞の中に俳句を入れるという新しいアイデアが盛り込まれている。
アレンジをする過程で、アヤヲさんと山田さんが大切にしていたのは原曲の良さを残しながら新しい音楽を作るということであった。それは容易ではなかったが、山田さんは原曲の素朴なテイストを残すために、現代風のサウンドではなく、1970年代の洋楽のイメージを取り入れてアレンジをおこなった。エレキギターとホーンが印象的で、どこか懐かしさを感じさせるサウンドだ。
トライ&エラーの大切さ
山口さん夫妻は、神河町に移住した1年目は、何をしていくのかをまだ迷っていて、出張して出店をしたり、宿泊施設の運営を試みたり、様々な模索をしたという。ただ、その「まわりみち」した経験は楽しかったし、結果的にいまの仕事につながっていることもあって、けっして無駄ではなかったと語る。〈トライ&エラー〉をしていた時に出会った人たちがいまの財産になっているのだ。だとすれば、「まわりみち」をすることは無駄ではなく、人生の豊かさでもあるということになるだろう。
「まわりみちしようか」と「みんなありがとう」
楽曲「まわりみち」で注目してほしい部分がある。それは「まわりみちしようか」という歌詞と曲のメロディーだ。
山口貴士さんは、神河町に来る前は東京の広告会社で働いていた。貴士さんは当時は「ショートカットがないか」をつねに考えながら仕事をしていたという。けれども、奈央さんと結婚して神河町に来てから考え方が大きく変わった。「地道に、淡々とやることを大事にするようになった」というのだ。遠まわりに思えても地道にやっていくことを「まわりみち」という言葉で表現しているのだ。
近道もいいけど まわりみちしようか
原曲はゆっくりと歩いているようなイメージで創られた。音楽は「ゆっくりと一歩ずつ進む感じ」を表現している。
「みんなありがとう」にも注目してほしい。これは、山口さん夫妻がまわりみちをした結果出会った人たちに向けた言葉なのだ。
「人生、まわりみちをするのも悪くないよ」
そんな実感のこもったメッセージが伝わってくるような一曲だ。
記事担当:(SIMARI)² 堀江修右
「まわりみち」ミュージックビデオ