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介護支援における「消極的改善」の罠と「積極的支援」の重要性


皆さん、こんにちは。酒井屋医元です。本日は、介護支援の現場でよく見られる課題、特に「消極的改善」に陥りがちな現状と、それを脱却し「積極的支援」へと転換するためのポイントについて、医学的な知見を交えながらお話ししたいと思います。

介護現場のジレンマ:「消極的改善」とは何か?

介護の現場では、日々の業務に追われ、どうしても「現状維持」を目標としてしまいがちです。例えば、

  • 転倒リスクのある高齢者に対し、「動かないように見守る」「車椅子での移動を促す」

  • 食欲不振の方に、「食べられるものを少しでも食べてもらう」

  • 認知機能の低下が見られる方に、「混乱させないように、刺激を避ける」

これらは一見、安全を確保し、負担を軽減するための配慮に見えます。しかし、医学的に見ると、これらは**「消極的改善」**、つまり、現状の悪化を防ぐことにはなっても、積極的に機能回復や生活の質の向上を目指すものではありません。

なぜ「消極的改善」に陥るのか?

その背景には、以下のような要因が考えられます。

  1. 人手不足と時間的制約: 目の前の業務をこなすことで手一杯になり、長期的な視点での支援が難しくなる。

  2. 知識・スキルの不足: 医学的根拠に基づいた積極的な支援方法を知らない、あるいは実践する自信がない。

  3. リスク回避の意識: 積極的な支援は、転倒や怪我のリスクを伴う可能性があり、それを恐れてしまう。

  4. 高齢者の意欲低下: 高齢者自身が、「もう年だから…」と諦めてしまい、積極的なリハビリや活動を拒否してしまう。

医学的根拠に基づく「積極的支援」の重要性

しかし、医学的な視点から見ると、「消極的改善」は、結果的に高齢者のQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。

  • 運動機能の低下: 安静を保つことは、筋力やバランス能力の低下を招き、寝たきり状態を加速させる可能性があります。適切な運動療法を行うことで、これらの機能低下を予防・改善することができます。

  • 栄養状態の悪化: 食欲不振を放置することは、低栄養状態を招き、免疫力低下や認知機能の悪化につながる可能性があります。原因を特定し、栄養指導や食事形態の工夫を行うことで、食欲を改善し、必要な栄養を摂取することができます。

  • 認知機能の低下: 刺激の少ない環境は、脳の活動を低下させ、認知症の進行を早める可能性があります。適切な認知機能訓練やレクリエーションを取り入れることで、脳の活性化を促し、認知機能の維持・改善を図ることができます。

つまり、私たちは、

  1. 高齢者の潜在能力を信じ、

  2. 医学的知見に基づいた適切な目標設定を行い、

  3. リスクを管理しながら、

  4. 積極的に機能回復や生活の質の向上を目指す

**「積極的支援」**こそが、真に高齢者のためになる介護支援なのです。

「積極的支援」を実現するために

では、具体的にどのようなことを意識すれば、「積極的支援」を実現できるのでしょうか?

  1. 多職種連携の強化: 医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士など、様々な専門職と連携し、医学的な評価に基づいた個別支援計画を作成する。

  2. エビデンスに基づいた知識の習得: 最新の医学論文やガイドラインを参考に、効果的なリハビリテーションや栄養指導、認知機能訓練の方法を学ぶ。

  3. リスクマネジメントの徹底: 転倒リスクなどを評価し、安全な環境を整備するとともに、適切な介助方法を習得する。

  4. 高齢者の意欲を高める工夫: 高齢者の興味や目標を尊重し、達成感や喜びを感じられるような活動を取り入れる。

  5. 家族との連携: 家族にも、高齢者の状態や支援計画を共有し、家庭での協力体制を築く。

最後に

介護の現場は厳しい状況が続いているかもしれませんが、私たちは常に、高齢者のQOL向上を目指し、医学的な根拠に基づいた「積極的支援」を実践していくべきです。

高齢者一人ひとりの状態を丁寧に観察し、潜在能力を引き出すことで、彼らの生活はより豊かで充実したものになるでしょう。

皆さんの日々の努力が、高齢者の笑顔につながることを信じています。

ご清聴ありがとうございました。

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