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『全館空調』はやったことありません③
現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。
前回の続きです。
②冷暖房範囲と③運転時間
この2点の議論は概念的な全館空調における二項対立構造になっているように思える。
キリスト教VSイスラム、全日本プロレスVS新日本プロレス的な。(私は田舎の無垢な少年としてこの構図に取り込まれ、猪木派を自認し、週プロは読まなかった。)
つまりキャビンアテンダントさんに「fish or chicken?」と問われるがごとく、「部分間欠冷暖房、全館空調どっちですか?」となる。
どっちかなのか?
webプロは「どっちか」になっている。
で、その差が大きい。計算してみた。
例えば、こんな感じ。
![](https://assets.st-note.com/img/1725073343924-bkEozEG8uD.png)
三種換気 以下細かい設定省略
![](https://assets.st-note.com/img/1725073213097-4xcNjbyAe6.png)
三種換気 以下細かい設定省略
この一次エネ消費量はメガジュール(MJ)表記。
で、これを二次エネ(住宅のコンセントを通して買う電気)に変換して、電気代を試算する。
![](https://assets.st-note.com/img/1725074438589-DJ9UV4azbA.png?width=1200)
なるほど。部分間欠冷暖房はそれぐらいかもしれない。
でも、いわゆる全館空調の時の電気代がよくわからない。
値がでかい。
こんな費用にはそうそうならない。
(建物性能、家の大きさ、設定温度によってはこうなる。)
両者の差を生んでいる大きな要因は冷暖房範囲と運転時間なのだ。部分間欠冷暖房が<居室のみ、在室時のみ>の運転であることはそうだろうと思う。しかし、「そうじゃない場合」いきなり「廊下も玄関も脱衣室も24h時間連続」となるのは随分飛躍がある。
webプロが入力上、二者択一方式となるのはわからんでもない。また一次エネの評価方法は絶対値(エネルギーの大きさ)の評価ではなくBEI(同じ冷暖房モードでの相対評価)となっているので、全館空調の際の絶対値が増大していても評価上問題ない。(いや、本来は絶対評価であるべきなので問題はあるがそれは別のお話)
しかし、私が実際に工務店さんや建材メーカーさんらと話をしていると、だいたい皆さんの頭の中も部分間欠冷暖房と全館空調の二項対立の世界の住人だなと思うことが多い。
で、わたし。
この対立軸で語るのであれば、全館空調(住戸全体で24h連続)はやったことありません。
まず、住戸全体について。基本的にダクト式エアコンで、吹出口をもうけるのは居室だけが多い。居室(LDKや個室)は冷房期に外が36℃の時に26℃になるような風量を計画する。また、給気された空気の流れとして、居室から非居室に流れ、そこからエアコン本体に戻るように計画する。通常利用しているダクト式エアコンの風量は600~1200m2/hとそこそこ大きなオーダーとなるので、居室の快適性はしっかり担保されつつ、非居室の熱環境もある程度確保できる。
それでも居室、非居室の温度むらができる。しかし、一定以上の建物性能(UA0.46w/m2k、ηAC1.0より優位とする)であるならば、その温度むらは0℃~2℃程度となることが多く、じーっとするような用途がないような非居室であればその温度むらは問題ないと考えている。むしろ、たいした用途のない非居室空間をLDKと同じような26℃にすることによるエネルギー増大のほうがもやもやする。つまり計画的温度むらを作っている。
また脱衣室にも吹出口をもうけないことが多い。脱衣室はヒートショックの震源地なので、温めたいところだが、夏の結露が怖い。
![](https://assets.st-note.com/img/1725078968738-f7R0mYhebY.png)
吹出口は通常こんな感じのものを使う。
冷房運転時にはこの吹出口から15℃程度の冷風がでる。
グリルは樹脂製で「防露・無結露」をうたっているので、LDKや個室で使う分には問題ない。
しかし、脱衣室のように湿気むんむんになる時間帯があるとその限りではない。グリル表面が結露したり、高湿度になると当然カビリスクが増える。それを避けたい。
しかし、前述のとおり、脱衣室はヒートショックの震源地。
できれば18℃以上にしたい。
現在の新築住宅はLDKからホール廊下を挟まずに脱衣室にアクセスするプランが多い。そうなると、暖房しているLDKのすぐ横の脱衣室は熱的にあまり温度差がない。よって、吹出口はいらなくなる。
脱衣室が暖房室から遠い、隣接していない場合。この場合は脱衣室のすぐ横の空間(つまり廊下や洗面室)に吹出口をもうける。そして、脱衣室使用時以外は建具を開放してもらう。そうすることによって、脱衣室の湿気むんむん結露を防ぎつつ、ヒートショックリスクを軽減できる。
この場合は非居室に吹出口をもうけることになる。
ことほど左様で、基本的には居室のみの吹出口設置としつつ、状況に応じて非居室にも吹出口を設置している。
次に運転時間。
私は間欠運転できる設計を大事にしている。
理由は以下の2つ。
①間欠運転のほうが概して電気代が安い。
これは建物性能、エアコン選定、入り切りの頻度によって
状況は変わるが、平日の日中家に誰もいないのであれば切った方がよい。(これもケースバイケースで太陽光パネルがある場合は自家消費率を上げた方がよいので日中の運転が正解と考えられる)
連続運転の方が電気代安いという「都市伝説」もまかり通っているが、状況による。
また、つけっぱなしでもサーモオフするから電気代かからないという話もあるが、エアコンは設定温度内外で断続運転をする。で、その断続運転は消費電力は低いがCOPは悪い。
例えば暖房運転時にパッシブデザインでガバッと日射取得。室温がオーバーヒートして28℃になった、というケース。これであればきっちりサーモオフするので消費電力は抑えられる。
間欠運転で帰宅後にエアコンをつけた場合、始動時に電気は使うが、それでも断続運転低COPだらだら消費電力より始動時ドカン!の方が電気をくうとは思えない。(もちろん状況による)
②機械寿命
エアコンには『設計上の標準使用期間』が定められている。
これ。
![](https://assets.st-note.com/img/1725081481576-uvrZc81sun.png)
なるほど、設計上は10年なのだそうだ。
(ちなみに、内閣府の『消費動向調査』によると、エアコンの買い替えサイクルは平均13.6年)
で、この10年には使い方の標準がある。それがこれ。
![](https://assets.st-note.com/img/1725081695171-1aMAgIFJtW.png?width=1200)
想定している1日、1年の使用時間がある。
あら、なんて間欠な運転ですこと。
そこで、メーカー(どことは言わない)に問い合わせた。
島:「すいません、この考え方だと年間2191時間(冷暖房合算)×10年が標準的な使いかたということですか?」
メーカー:「はいそうです。」
島:じゃあ24時間連続運転だと、この運転時間クーポン(例えば2191×10年=21910時間)を毎時間もぎりながら使うことになるんですか?」
メーカー:「考え方はそうです。なので、機械寿命は短くなる可能性があります。」
島:「なるほど。ではサーモオフ時は運転時間にカウントしますか?」
メーカー:「はい、カウントされます。」
そんなこんな。
つまり連続運転を続けると「メーカー見解として」機械寿命を縮める。
また、それは一般論として「そうだろうな」と思える。
※このメーカーの技術者との問答はメールでおこなった。よって、記録に残る形での回答なので、メーカー見解と言える。つまり、消費者が「連続運転はエアコン寿命を縮めますか?」と直接メーカーに聞いたら、たぶん上記のように答える。
で、ダクト式エアコン。その良さはいろいろあるが、以下はその典型。室温が30℃だった。冷房26℃設定でダクト式エアコンをつけた。15℃の冷風が吹出口から勢いよく出てきた。
これです。これ。これによって、30分後(1時間後?状況による)には設定温度になることが設計できる。
つまり予冷・予熱時間さえ把握すれば間欠運転できるのだ。
で、間欠運転することによって、①電気代を抑えて、②機械寿命も短くならないようにできるのだ。
壁掛けエアコンを使った空調システム(ダクトを使わなかったり、使ってもちょろっと使う)。その場合、冷房したい部屋に何℃の冷気が何m3/h流入するかわからない。もし、ファンを使わず自然対流で計画されている場合(それを計画というのか?レッセ・フェールではないのか?)、ある居室が26℃で、一泊二日で旅行に行くからといって、エアコンを消せるだろうか?
一旦消して、室温が30℃になった場合、いつ26℃になるのか?レッセ・フェール、Let it beなのだ。なので、ダクト式エアコンを私は重用する。
ここまでをまとめる。
私はいわゆる全館空調はやったことありません。
なぜなら非居室は冷暖房しないし、24h連続運転を推奨しないからだ。
ことほど左様で、冷暖房モードは部分間欠冷暖房か全館空調かの二者択一ではない。そのヒントがHEAT20の『ぼんぼりの図』だ。
![](https://assets.st-note.com/img/1725084884173-Wv8Di7jW77.png?width=1200)
横軸が最低室温で、縦軸が暖房負荷。そして、建物性能がUA0.87から0.26まで曲線で示されている。また、暖房の運転モードが自然室温から全館連続まで示されている。これを見ると、暖房モードは部分間欠と全館空調の二者択一ではなく、グラデーションのあるものであることがわかる。ジェンダーが男か女かのシンプルな図式ではなくLGBTQのようなグラデーションのあるものであることが認識され、レインボーフラッグができた。この『ぼんぼりの図』も単純な二者択一ではなくグラデーションがあることをよく示しているし、何よりレインボーにみえる。
住宅の熱環境を提供する実務者として大事にしているのは、この『ぼんぼりの図」のどこに、冷暖房範囲や運転時間の最適な位置があるかをちゃんと見つけられるようにすることだ。
以上、今回までの集計
![](https://assets.st-note.com/img/1725085901471-qPeIt0bfyq.png?width=1200)