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快適の定義と提示②             ーーPMVとPPDーー

工務店が安易に使いがちな単語「快適」について、前回は「産業空調」と「保健空調」を手掛かりに、保健空調(ヒト対象の空調)は、人間が温度に対する許容域が広い事がむしろ仇となって、個々人それぞれの「快適温度」があることについて書きました。

そんなこんなで、今回は続きです。相変わらず「快適」が曖昧であることについて書きます。

世界中の空調学会の賢い方々も「快適」を定量的に測ろうと、様々な指標を生み出してきました。その一つにPMVがあります。これは、wikipediaによると、以下の通りです。

PMVは人間の感覚量から物理的考察に基づいて温熱快適性を表示したもので[1]、1967年にデンマーク工科大学のオレ・ファンガー(英語版)によって提唱された。温冷感を決定する環境側の4要素(気温[℃]・湿度[%]・風速[m/s]・熱放射[℃])に、人体側の2要素(代謝当量(英語版)[met]・着衣量[clo])を加えて考慮する。PMVでは、PMV=0の状態を熱的中立とし、-3から3のあいだで人間の温熱快適性を表現する。なお、極端に過酷な環境下ではPMVは適応できない

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%88%E6%83%B3%E5%B9%B3%E5%9D%87%E6%B8%A9%E5%86%B7%E6%84%9F%E7%94%B3%E5%91%8A

<服装> × <活動(内容)> × <空気環境(4要素)> 
によって、その空間にいる人間が快適か不快かを計算で予測する、ということです。
そして、計算結果は「+3~ー3」の段階で表され「0」が快適です。

またPMVをベースに、PPD「予測不満足者率」が表されます。
PMVとの関係は以下のグラフの通りです。


即ち、PMV=0の時、不満足者率は5%であり、例えばPMVが-1.5(やや寒いと寒いの間)だった時の不満足者の割合は50%です。
50%が不快。これはどんな環境かと言うと、
<薄手の夏服でイスに座っており、気温23℃、相対湿度60%、そよ風が吹いている感じ>です。(PMVで言うと-1.46)。
なるほどそうか。
で、空気環境は同じでも夏服を改めスーツを着用すると、不満足者率は5.8%に激変(PMV-0.19)。わからんでもないです。
空調衛生工学会が夏の基準にしている環境、即ち26℃50%はどうかと言うと、7.1%が不快(PMV-0.32)となります。(夏服・着座・微風)

そして、「これは今後、こういう事とします」という標準化を世界規模で行うISOは、なんと快適についても標準化を行い、このPMVをベースにしています。
そのISOでは「PMVが-0.5~0.5の間を快適」と定義しています。これはなかなかのことです。何故なら、-0.5~0.5ということは10%は不満足であることを意味します。90%の大多数は満足なので、ベンサム的功利主義なら大団円かもしれません。しかし、「快適」を謳って不満足です、と言われた場合、全ての既契約お施主様を功利主義で切り捨てられない工務店的には、それはやはり真摯に対応することになるだろうと思います。

10%が不満足とはなかなか大きい数字です。何故なら4人家族3組に「快適ですよ!」と営業して、空調も含めてご採用いただいた場合、理論的には1人は不満足であることを意味します。つまり、3物件に1件は「快適」じゃない、何とかならないか?と言われる可能性があるということです。

繰り返しますが、国際的に「これは快適とする」という基準をもってしても10%の人間は不満足である可能性があります。
10%という数字はとても大きく、空調工事を請けた物件3件に1件は「快適ではない」と言われる可能性があるということです。

これは、「快適」の定義をお施主様にゆだねているからです。
ではなく、私たちが考える「快適」の定義はこれですよ、と、提示するそれこそが工務店が空調を請ける上で求められるスタンスだと考えます。

長くなったので、続きは次回以降で。

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