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【論文レビュー】ジョブ・クラフティングにおける「よい仕事」と副作用:高尾(2023)

久々にジョブ・クラフティングの論文を読みました。高尾先生の論文を読むといつも学びが促されます!

高尾義明. (2023). ジョブ・クラフティングの可能性の多角的検討. 日本労働研究雑誌, 65(6), 68-79.

ジョブ・クラフティングとは

仕事そのものによる内発的動機づけとしては、Hackman and Oldham(1976)の職務特性理論を用いて上司による職務デザインが従来は行われてきました。それに対して社員が自ら仕事の意味性を高めていくための工夫としてジョブ・クラフティングという概念がWrzesniewski and Dutton(2001)によって提唱されました。

このジョブ・クラフティングについて、本論文で高尾先生は「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」(p.69)と訳出されています。タスク、関係性、認知という3つの観点で自ら仕事を創る(クラフトする)というような意味合いです。

ここまでざっくりですみません。ジョブ・クラフティングを学ばれたい方は、高尾先生と森永先生による編著の『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』がオススメです!

二つのジョブ・クラフティングと「よい仕事」

ジョブ・クラフティングにはWrzesniewski and Dutton(2001)によるオリジナルのものと、Tims and Bakker(2010)JD-Rモデルに基づいて再概念化したものとがあります。それぞれの相違は、先ほど紹介した書籍の第1章に精緻に述べられているのでぜひお読みください。私の簡単なまとめを以前noteにまとめましたのでざっと把握されたい方はご笑覧ください。

両者では「よい仕事」の捉え方が異なると本論文では提起されています。前者は、人が自身の考える仕事の意味を感じ取れるかどうかが大事であり、アイデンティティとのフィットが目指されると高尾先生はレビューされています。

それに対して後者においては、疲労やバーンアウトの抑制ワーク・エンゲージメントの向上が焦点に当たっています。前者が個人にとっての意味であったのに対して、後者は個人とともに組織にとっての意味合いも含意されているという高尾先生のまとめは刮目するべきでしょう。

副作用もある

こうした二つのジョブ・クラフティングの捉え方の背景からポジティヴな効果は想像されますが、副作用もあるとされています。

Pierce and Aguinis(2013)が指摘したような「過ぎたるは及ばざるがごとし」効果(The Too-Much-of-a-Good-Thing Effect)が,JCにおいても当てはまる可能性がある。

p.73-74

論語の「先進第十一・一六」の章句が出てくるのが興味深いですね。個人による過剰なジョブ・クラフティングが中長期的な成長や他者との協働を阻害してしまったりといった副作用が生まれかねないと指摘されています。

上司の支援

そこで求められるのが上司によるマネジメントであり支援行動であると本論文では指摘されています。実際、若手社員を対象とした池田先生の実証研究(池田他 2020)では、上司によるフィードバックがジョブ・クラフティングを媒介して中長期的な能力向上に影響を与えていることが示されています。


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