【読書メモ】ポジティブ・サプライズとは何か?:『若年就業者の組織適応』(尾形真実哉著)
新しい組織に入るときにリアリティ・ショックという想定外の悪い印象で組織への適応が遅れる事象がよく起こります。新卒で入社した際の経験や転職経験を思い起こしていただければなんとなく想起できるのではないでしょうか。このリアリティ・ショックは一般的にも使われる言葉ですが、その反対に、入社前に期待していた内容が入社後の現実に直面して良い意味で裏切られることもあります。この現象を著者はポジティブ・サプライズと名付けています。
組織参入と驚き
著者は、私たちが新しい組織に参入した後に経験するプロセスを①変化、②対比、③驚きの3つで構成するモデルを提示したLouis(1980)を紹介しています。変化とは「新しい環境と古い環境の間における客観的な相違」(p.67)のことを指し、このような変化によって私たちは様々な対比を行うものだとしています。
そして驚きとは、こうした「変化と対比を含む多くの相違への感情的な反応」(p.67)のことです。反応の中にはネガティブなものとポジティブなものとがあり、前者がリアリティ・ショックに、後者がポジティブ・サプライズに該当する、というような関係性です。リアリティ・ショックは以前から提唱されていた概念ですが、著者は後者のポジティブ・サプライズをインタビューから発見して概念化したということなのですね。
4次元で構成されるポジティブ・サプライズ
著者は、まず16項目で探索的因子分析を行い、その結果として13項目で4因子構造に分かれたとしています。その上で確認的因子分析を行い、モデル適合度を確認しながらパス係数が小さい項目を削除して、4次元10項目でのモデルが最も適合度がよかったと結論づけています。
具体的には、仕事、対人関係、他者能力、キャリアの4次元構成です。このうち、仕事ポジティブ・サプライズは職業的社会化と情緒的コミットメントにポジティブな影響を与え、対人関係ポジティブ・サプライズは職業的社会化と情緒的コミットメントに加えて文化的社会化にポジティブな影響を与えています。
上司や同僚の能力が予想外に高かったという驚きである他者能力ポジティブ・サプライズは、焦燥感や不安感をもたらして職業的社会化にネガティヴな影響を短期的に与えます。その一方で、中長期的には離職意思を削減する効果があるとしています。
リアリティ・ショックとの関係性
組織参入後に経験する二つの驚きとしてリアリティ・ショックとポジティブ・サプライズがあるという話を先ほどしました。ただ、リアリティ・ショックを解消するとポジティブ・サプライズが高まるという関係性ではないようです。
そのため、リアリティ・ショックを軽減する施策とポジティブ・サプライズを高める施策は異なることが実践的示唆として提示されています。