マリウポリの20日間
アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した本作はウクライナ作品にとって史上初のアカデミー賞受賞作品となった。そして、この受賞をゼレンスキー大統領が喜んだりもしていたので、ウクライナ側のプロパガンダ映画なのではないかと思ったりもした。というか、見ていて最初の3分の1くらいまではそうとしか見えなかった。
一部はボカされているとはいえ、死傷者の姿が生々しく映し出されているが、どうやら、病院など当局側がメディアにどんどん撮って拡散してくれと主張していたようだ。それは、ウクライナ側が不幸をプロパガンダに利用しているようにしか見えなかった。
本作でも取り上げられているが、ロシア側に病院での映像は役者を使ったフェイクだと主張させる動機を与えてしまっているのはそういうところだと思う。
このロシア側の主張に対する明確な否定を作中ではしていないように感じたが(やんわりとフェイク扱いされないようにしないといけないみたいな発言はあった)、その背景には本作の監督を務めたAP通信ジャーナリストのチェルノフ氏がゼレンスキー大統領を100%正しいと思っていないというのもあるのではないだろうか。
中盤になるとドサクサにまぎれて崩壊した商店から商品を盗むウクライナ人の姿も映し出されるし、終盤にはロシアだろうとウクライナだろうと戦争を始める奴は許せないといった市民の声も取り上げられている。ウクライナの負の部分も描いているのはそういうことなのだと思う。
勿論、ロシア軍、プーチン大統領のやっていることは非人道的だが、ウクライナ軍、ゼレンスキー大統領は必ずしも正義ではないし、ウクライナ人の中にも酷い連中がいる。どちらか一方だけを完全な善、もう片方を完全な悪とするのは違うのではないか、冷静に中立な立場で考えてみようというメッセージを感じることができた。
最近、欧米ではウクライナ支援疲れなんていう言葉を耳にする機会が増えたが、それは、ウクライナ側の主張が100%正しいとは思えない。だから、そんなウクライナに肩入れして支援し続けるのは意味がないと思っている人が増えたあかしでもあると思うしね。
ところで、政治的主張を抜きにして本作を見て驚いたことがある。
それは、本作が画質、音質ともに劇映画なみのクオリティであったことだ。日本のドキュメンタリーだと監督がハンディカメラ片手に取材し、音声もカメラマイクで収録しているから、画質や音質は悪いし、画角もカメラワークもイマイチだけれど、本作ではそんなことはない。
能登地震発生直後のBBCのリポートもそうだったけれど、海外メディアって、戦争とか震災のような命の危険が迫る現場でもハイクオリティな映像や音声を収録しているんだよね。
こういうのを目にすると、日本のマスコミはジャーナリストごっこをしているだけにしか見えないよね。まぁ、逆に言うと、ここまで作り込まれた映像は単なる取材ではなくロケだろって言いたくなるが。でも、きちんと取材しているんだよね。安っぽい映像の日本のニュースやワイドショーなんかは台本をなぞるだけのロケで取材なんてきちんとしていないしね。そもそも、日本のニュースやワイドショーのディレクターやカメラマンは取材でなくロケという言葉を日常的に使っているので、日本のマスコミに取材能力はそもそもないとは思うが(全員がないという意味ではない)。
※画像は公式HPより