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水は海に向かって流れる

「水は海に向かって流れる」という検索ワードを打ち込むと、“爆死”という言葉がサジェストされる。
実際、本作は観客動員数ランキングでトップ10入りを逃している。今、20代のアイドル的存在の女優の中で人気・知名度の上位争いをしている広瀬すずの最新主演映画と考えれば爆死と言われても仕方ないと思う。

でも、本作はミニシアター系や小規模公開作品の多いハピネットファントム・スタジオ配給作品だ。だから、シネフィル寄りの映画ファンなら本作がランキング上位に入らなくても、そりゃそうでしょとしか思わないのではないだろうか。

というか、そもそも、広瀬すずって映画女優としての需要ってそんなにない気がする。

主演・ヒロイン役作品でヒットしたと言えるのは、「ちはやふる」シリーズ、「四月は君の嘘」といったコミック実写化作品か、人気小説を映画化した作品でジャニーズメンバーと共演した「ラプラスの魔女」のような誰が出ていてもある程度の数字は稼げたであろう作品ばかりだ。
唯一、彼女のおかげと言っていいのは実話の映画化ではあるが、人気コミックや小説の映画化ではない「チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで
全米制覇しちゃったホントの話〜」くらいだ。

2020年以降の出演映画を振り返ってみよう。

「ラストレター」、「新解釈・三國志」、「いのちの停車場」は主演・ヒロイン役ではないので除外すると、彼女の集客力を判断する材料となるのは、主演・ヒロイン役である「一度死んでみた」、「流浪の月」、「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」が対象となる。それぞれ、松竹、ギャガ、ワーナーと大きな映画会社の配給作品ではあるが、個々の興収は4.6億円、8.3億円、6.1億円といった成績だ。いずれも、大コケとまでは呼べないが、大成功とは言えないよねって感じの数字だろうか。まぁ、「一度死んでみた」はコロナ禍に入りたての頃の公開で、映画館の休業も相次いでいた時期の作品と考えれば、不謹慎なタイトルの作品なのに、よくそこまでの成績をあげられらたよねという気もしないでもないが…。

とにかく、そもそも、広瀬すず主演・ヒロイン役映画というのは彼女自身の知名度の割には元々、それほど集客力がないというのは理解してもらえたのではないかと思う。

元々、スタッフを見下した発言などに起因して発生したアンチも多い人だし、恋愛スキャンダルもちょくちょくある。特に去年の報道は一気にガチ恋ファンを他界させたと思う。
だから、ただてさえ集客力のなかった広瀬すず主演・ヒロイン役の興行成績が落ちてもなんの不思議もない。ましてや、本作はハピネットというミニシアター・小規模公開作品中心のこじんまりとした配給会社の作品だ。

なので、広瀬すずを叩きたいがために爆死と連呼するのは違うのではないかと思う。

実際に本作を見た印象を一言で言えば、邦キチと呼ばれる勢力に絶賛されそうなタイプの作品だったといった感じだろうか。つまり、10〜20代のカップルがイチャイチャしたりポップコーンをつまんだりしながら見る映画ではない。だから、ランキング上位に入らなくても何の驚きもない作品だった。

個人的には惜しい作品だと思った。

せっかく、個人的なキャラがいっぱいいるのに、活かしきれていないんだよね。LGBTQでも女装子でもないのに、女装して占い師をやっている人物なんてめちゃくちゃ面白い設定なのに、このキャラが女装して登場するシーンは2ヵ所だけ。そして、そのうち占いをしているシーンは1ヵ所だけ。しかも、妹相手に適当にやっているだけ。ぶっちゃけ、このキャラは必要なかったよね。
ほかにも、海外に行くことが多い教授とか、漫画家のおじさんとか、面白い設定のキャラが何人もいるのに全然活かせていなかった。それから、主人公(クレジット上では広瀬すずが主演となっているがストーリーは明らかに男子高校生の目線で進んでいる)に恋愛感情を抱くクラスのマドンナ的存在(これが女装占い師の妹)の描き方も中途半端だった。ぶっちゃけ、主人公と広瀬すず演じるヒロイン以外はほとんど薄い描写に終わっている。
まぁ、単行本で3巻分の内容を2時間ちょっとの映画にすると、どうしてもこうなってしまうのだろうが。というか、映画でなく連ドラやアニメシリーズで語るべきストーリーだったような気もする。

それから、ご都合主義展開も多い。主人公の父親とヒロインの母親がW不倫の関係というだけでも、ご都合主義の極みなのに、自分の母親を奪った男の義理の弟である男性(主人公のおじさん)が運営するシェアハウスに知らずに住むというのはいい加減にしろと言いたくなる。
さらに、シェアハウスの住人の女装占い師と主人公のクラスメイトでクラスのマドンナ的存在の女子が兄妹だったり、ヒロインの父親とシェアハウス住人の教授が友人だったりと、呆れるばかりだ。

でも、この映画がクソ映画かと言うとそうでもない。

少なくとも2つの点では評価できる。

一つは年上女性への憧れだ。
人によって、その時期は異なるが、年上女性に恋愛感情を抱いた経験のある男性は多いのではないだろうか。
基本的に自分と同世代(プラスマイナス3歳)の女性にしか恋愛感情を抱かなかった自分が、年上女性を好きになったのは27歳くらいの時だ。
彼女がニューヨークで仕事をすることになった時には、みちのくならぬニューヨークひとり旅をして彼女に会いに行ったくらいだ。
でも、彼女は自分の仕事の能力は認めてくれても恋愛対象にはしてくれなかった。そして、自分が30代後半、彼女が40代になった頃には彼女へのこうした感情も失せてしまった。

こういうことを言うと、フェミ的な人たちは男尊女卑だなんだと言うかも知れないが、こればかりは生物の本能として仕方ないんだよね。
男はそれこそ、アル・パチーノではないが、80代になっても女性を妊娠させることができる。
でも、ほとんどの女性は30代後半になると妊娠・出産が難しくなる。
セックスというのは本来、子孫を残すために行うものだから、男が妊娠できない体の女性に対して興味を持たなくなるのは当然のことなんだよね。だから、自分も30代後半になって、すっかり、年下好きになってしまった。
本作はそうした多くの男が少なくとも一度は経験する年上女性への憧れや恋愛感情がよく描けていたと思う。

そしてもう一つ感心したのが、浮気や不倫をした親を持つ子どもの心情がリアルに描かれていることだ。
どうやったって、子どもは浮気や不倫の末に家を出ていった親は一生許せないし、ましてや、その親が新しい家庭を築いていると知ったら、ふざけんな、破壊してやるという感情しか抱けないからね。

自分も似たような経験がある。父親が浮気して家を出ていき、その浮気相手と再婚し、相手の連れ子と一緒に生活していると知った時は腹が立ったからね。まぁ、母親に問題もかなりあったし、母親だって怪しい行動はあったけれどね。

父親が体調を崩して入院した時に再婚相手が、看病に来いとか、見舞い金を出せみたいなことを仕事中に電話してきた時なんて、⚪︎意しか抱けなかったしね。

そして、さらに父親の体調が悪化した時に、父親がバリアフリー住居に越したいから保証人になってくれと言った時なんてふざけんなと思った。
でも、死が近いんだろうなというのは察知していたので、そこまで冷たくするのもなんだしなと思った。死期を悟り、血の繋がっていない再婚相手の息子よりも、血の繋がっている実子に頼りたくなったという気持ちも分からないでもないから、保証人になることにした。
しかし、その手続き中に父親は他界した。普通なら再婚相手は手続きは中止してくださいと言うものなのに、そのまま手続きをさせて、自分が住んでいるんだから呆れてしまう。
というか、一度も再婚相手に会ったことないのに同じ戸籍に入れられているのはなんなんだって思う。それに、ほとんどないだろうが遺産とか遺品の話も一切なかったしね。
しかも、その息子と一緒に自分が保証人になってあげた住居に住んでいる疑惑もあるんだよね。

それだけ、こちらに迷惑をかけておきながら、父親の⚪︎回忌とかのお知らせは寄こさないし、年賀状も住所と名前以外は何も書いていないものを送ってくるだけ。

本当、いい加減にしろって思う。

そういう、浮気や不倫をした親の子どもの怒りの感情の描写は見事だったと思う。

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