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邦高洋低トレンドさらに進む

日本映画製作者連盟が発表した2024年度の興行収入は前年度比93.5%と厳しい結果になった。
カレンダー上でなく、年度という不透明な形で相変わらず集計しているのはどうかと思うが。作品によっては11月公開作品でもその年の作品扱いになったり、翌年扱いになったりするのは数字を大きく見せたい業界団体や配給会社の思惑でしかないので。

話を戻すが、邦画単体で見ると、現在の興収ベースの統計をはじめて以降では過去最高の興収1558億円を記録している。
つまり、洋画の成績が悪化した結果、全体の数字も落ちてしまったということだ。洋画のシェアはたったの25%弱しかない。

邦高洋低と言われて久しい。本格的にこのトレンドになったのは2000年代後半あたりだが、「もののけ姫」が記録的な大ヒットとなった1997年あたりから、その傾向は出ていたと思う。その傾向が、その後の宮﨑駿(当時は宮崎表記だった)作品や劇場版「踊る大捜査線」シリーズで拡大し、ゼロ年代後半で定着したといっていいと思う。

そして、洋画がヒットしないから、上映館数や上映回数は一部の作品を除くと減らされてしまうし、期待されていた作品でも期待値よりちょっとでも成績が悪いと上映館数や上映回数が減らされてしまうし、あっという間に打ち切られてしまう。
見たいと思った洋画の上映館数や上映回数が少なく、スケジュールが合わずに見ないまま終わってしまうケースが本当に多い。

洋画を日本人が見なくなった理由は色々ある。

よく、続編やリメイク、リブート、スピンオフばかり、アメコミ原作映画ばかりで新鮮味がないから洋画は飽きられたと言われるが、邦画だって、テレビドラマやテレビアニメの劇場版、アニメ・コミックの実写化ばかりだ。

CGによる描写の多用でリアリティのない映像が日本人の感性に合わないという意見もよく聞くが、ハリウッド作品に比べればスケールは小さいが邦画だってCGは使っている。
また、アニオタはCGアニメを毛嫌いしているが、海外のCGアニメーション映画はディズニー(ピクサーを含む)やイルミネーションの作品を中心に日本でもヒットしている。

それから、過度のポリコレ描写に嫌気がさしているという指摘もよく耳にするが、これも違うのではないかと思う。
ハリウッドが過度のポリコレに走るようになったのは、ドナルド・トランプが大統領選で最初に当選した2016年の秋以降だ。
既にこの時点で邦高洋低のトレンドになって10年くらい経っている。

そのトレンドに向かう大きなきっかけとなったのは、2001年の「千と千尋の神隠し」(当時の日本の興収記録達成作品)と2003年の「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(現在も実写邦画の興収記録保持作品)だと思う。

この時期は小泉政権だった(2001〜2006年)。同政権では、派遣法が改正されて非正規雇用が増えた。非正規なので収入は少ないから海外旅行になんて行けない。だから、おのずと海外に対する興味も薄れてしまう。
そして、小泉が訪朝したことにより、これまでは知る人ぞ知るといった感じだった拉致問題が国民みんなが知る案件となった。それにより、拉致を行った北朝鮮のみならず、同じ民族の韓国に対する嫌悪感も増すようになり、それがネトウヨ思想の礎になった。コリアンを中心にした外国人嫌いがこの政権下で増えたのが洋画や洋楽を好まない人を増やす要因になったと言っていいと思う。

でも、最大の要因はキー局が洋画の話題を扱わなくなったことだと思う。
キー局が製作委員会に名を連ねる邦画が増え、自局のワイドショーの芸能コーナーで扱う映画の話題は自社案件ばかりになってしまった。その結果、洋画の情報は90年代までに日本で人気を確立したスターのものを除けば、ほとんど流れなくなってしまった。

かつては全てのキー局のゴールデン枠にあった洋画劇場がなくなったのも大きな要因だ。今は日テレの「金曜ロードショー」しか残っていないが、この「金ロー」だって、ジブリ作品や劇場版コナンなど自社案件の作品の放送がほとんどだ。

つまり、海外エンタメ(K-POPを除く)の情報は自ら積極的に調べないと入手できなくなってしまった。これが邦高洋低の最大の原因だと思う。

とはいえ、本当に邦画が好調なのかと言うと、それも怪しい。



24年度の総合の年間ランキングの上映10作品を見ると、このうち、6本が洋画を含むアニメ作品だ(ディズニー系作品はアニメと呼ぶと配給・宣伝が怒るのでアニメーションと呼んだ方がいいのだろうが)。
アニメのシェアは邦画で58%、洋画で53%(「インサイド・ヘッド2」、「怪盗グルーのミニオン超変身」、「ウィッシュ」の3本でこの数値の大部分を稼いでいるのでは?)、総合で57%となっている。

つまり、特典商法でリピーターが多い深夜アニメの劇場版や、(付き添いで来るだけで作品に興味がない保護者もいる)家族連れでの来場が多い国内外のファミリー向けアニメで数字を盛っているだけということだ。

結局、この20年くらいの邦高洋低のトレンドの理由って、日本人は映画に興味がないってことに尽きるのではないかと思う。

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