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ツイスターズ

本作は1996年公開のヒット作「ツイスター」の続編のようなリメイクのようなリブートのような作品だが、あえて、そうしたことは大っぴらにはせずに新作として売ろうとしているようだ。まぁ、実際に見た上で言わせてもらうと共通の世界観を持つ別作品って感じかな。

製作総指揮は“前作”同様、スティーブン・スピルバーグだが、製作はキャスリーン・ケネディから夫のフランク・マーシャルにかわっている。また、監督は前回は撮影監督出身のヤン・デ・ボンだったが、今回は賞レースを賑わせた「ミナリ」のリー・アイザック・チョンにバトンタッチしている。
配給は96年版は北米がワーナー 、それ以外がユニバーサルだったが、今回はテレコになっている。
サントラ盤は「ツイスター」はヴァン・ヘイレン、グー・グー・ドールズなどのロック系とシャナイア・トゥエインなどのカントリー系を混ぜたものだったが、今回はカントリーに特化している。ちなみにシャナイアは今回も参加している。



ヴァン・ヘイレンのサントラ提供曲“ヒューマンズ・ビーイング”はいわくつきの1曲だった。

映画の制作サイドからは映画のストーリーに関係ない歌詞にしてくれと依頼されていた(主題歌とか挿入歌でなくBGMとして使うという意味なのだろう。実際、この曲の使われ方はあっさりだった)。にもかかわらず、サミーは映画の内容にリンクする歌詞を書いてきてしまった。この頃、サミーはエディ・ヴァン・ヘイレンと兄のアレックス・ヴァン・ヘイレンとの関係がギクシャクしていて、この歌詞の内容に関して兄弟がボロクソに言っていたという説もある。

一方、エディはベスト盤を出したかったが(96年時点でヴァン・ヘイレンはオリジナル・アルバム10作品を出しているのでそう思うのは当然)、サミーは乗り気ではなかった(サミー加入後のヴァン・ヘイレンとしてはオリジナル・アルバムはこの時点で4作品だから時期尚早と思うのも仕方ない)。
そこで、エディは「ツイスター」のサントラに新曲が2曲必要だとウソをつき、サミーに歌詞を書かせようとしたとされている。そして、そのウソに気付いたサミーはブチ切れて、一気に脱退に至ったらしい。

ただ、「ツイスター」のサントラにはヴァン・ヘイレン兄弟のみのクレジットによるインスト曲も収録されているので、2曲提供してくれという話はウソではなかったのではないかという気もする。サミーがきちんと歌詞を書いていれば、このインスト曲も歌ものになっていたのでは?

また、このサントラから間髪置かずに、ヴァン・ヘイレンはサミーの前任のボーカリストだったデイヴィッド・リー・ロスが復帰した新曲2曲を含むベスト盤をリリースしている。そう考えると、ヴァン・ヘイレン兄弟は最初からサミーがベスト盤を拒否した時点で彼を追い出すことを策略し、サントラはサントラでサミーに置き土産として2曲やらせて、それとは別にベスト盤用にデイヴを呼び戻して新曲を作ろうと画策していたのではないかという気がする。

ただ、このデイヴ復帰も長くは続かず、MTVのVMA授賞式出演といったわずかなプロモーション活動をしたのみで終わり、MV撮影直前に再びデイヴが脱退するという事態に陥った。おそらく、ヴァン・ヘイレン兄弟はデイヴに完全に戻ってきてもらうのではなく、どうしても出したいベスト盤の売りとなる新曲のために一時的なコラボを呼び掛けただけのつもりだったのだろう。でも、本気で復帰しようとしていたデイヴがその真意を知り再びケンカ別れとなったのでないだろうか。また、一部ではサミーが抜けた後のボーカリストとして既にこの時点でエクストリームのゲイリー・シェローンが内定していたという説もあったので、それを知ったデイヴが激怒した可能性もあると思う。

そんな、一触即発の空気感の中で作られたのが“ヒューマンズ・ビーイング”だが、個人的にはサミー・ヘイガー在籍時のヴァン・ヘイレンのベスト・トラックだと思っている。

楽曲は不穏な感じで始まる。竜巻の到来という映画のイメージに重ね合わせたのだろうが、それと同時に90年代の時代の音となったオルタナっぽい雰囲気も感じさせてくれた。多くのハード・ロック/ヘヴィ・メタル系バンドが92年以降、苦戦を強いられた中、ヴァン・ヘイレンは古くささを感じさせないサウンドで攻めに来たと言っても良かったと思う。

そして、ちょっとラップっぽい雰囲気を漂わせているヴァース部分もカッコいい。メガデスやパンテラといったオルタナ/グランジ時代に突入してもダサい扱いされなかったスラッシュ系メタル・バンドのようだ(パンテラをスラッシュの枠組みで語ることを好まない人もいるだろうが)。

それでいて、サビに来るとサミー時代のヴァン・ヘイレンらしい明るい王道ハード・ロック・サウンドになる。

勿論、エディのギターも堪能できる。これは最高傑作と呼んでいいと思う。

ロック・バンドって何故か、解散の危機状態の時に傑作を生み出したりすることがある。

ザ・ローリング・ストーンズの80年代中盤は最も解散に近付いた時期だと思うが、86年にリリースされた“ワン・ヒット”なんてめちゃくちゃカッコいいしね。

仲良しこよし状態だと相手に遠慮してしまうが、険悪な関係だとそういう配慮がなくなり、お互いが自己の主張を全面に出すから、個々の主張がうまく噛み合えば傑作になるということなのだろうか。



作品自体の出来についても触れておこう。

“前作”は竜巻に吹き飛ばされる牛の姿は確かに映画史に残る名場面となった。でも、ストーリー的には竜巻が接近してくると、メインキャラたちがそれを追いかけていき、危険が迫ると逃げていくというのを何度も繰り返すだけで内容のない映画だった。

メガホンをとったヤン・デ・ボン監督は撮影監督だから、画作りにはこだわりがあるが、ストーリーテリングはそれほど得意ではなかったということなのだろう。

でも、本作はアカデミー作品賞にノミネートされた「ミナリ」のリー・アイザック・チョン監督作品だから、きちんと、ドラマ部分がしっかりしていて内容のある映画となっていた。

まぁ、スペクタクルな映像や大音響の効果音さえ楽しめればいいという人にとっては逆に、“前作”よりも退屈な作品なのかも知れないが…。

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