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名探偵コナン 灰原哀物語~黒鉄のミステリートレイン~

2021年2月に公開されたシリーズ初の総集編映画「緋色の不在証明」は単なるイレギュラーな劇場版だと思っていた。
20年4月公開予定だった劇場版24作目「緋色の弾丸」が新型コロナの影響で21年4月に公開延期となり、1997年から2019年まで23年連続でゴールデンウイーク(4月)に新作劇場版を公開するという恒例行事が途絶えてしまった。

祭りとか音楽フェスなどのイベントもそうだが、毎年恒例でやっていたものが休止となると、翌年以降に再開された際の来場者数が大幅に減ってしまうことが多い。
だから、劇場版コナンシリーズを忘れ去られないようにとの思いで、1年遅れで公開となる最新作に関連するテレビシリーズのエピソードをまとめた総集編映画を公開しようとなったのではないかと思う。

また、「緋色の弾丸」の内容が東京オリンピックの紛い物みたいな国際スポーツ大会を題材にしていたことも同作の興行成績を不安視する要素になっていたのではないだろうか。
東京五輪は当初、20年夏開催予定だったが、こちらもコロナの影響で21年夏に延期された。
しかも、21年に入って間もない頃の感染状況では再度延期もしくは中止の可能性も高かった(最終的には無観客開催となった)。
既に五輪が延期になった時点で五輪っぽい大会を題材にした映画というのは賞味期限が切れかかっていたが、中止や再延期となれば、今度は消費期限まで切れてしまう。
なので、少しでも作品に興味を持ってもらうために、五輪っぽい大会を描いた作品というイメージを薄める必要があった。

だから、これまで以上にキャラ推しのプロモーションをする必要に迫られ、最近コナンを好きになった人、特に劇場版でしかコナンを見ない人にも興味を持ってもらうために同作で中心となる赤井一家に焦点を当てた総集編映画を作ったという側面もあるのではないかと思う。

この作戦は「緋色の弾丸」の公開直後に東京などで緊急事態宣言が発令され、都内のシネコンが休業となったのにもかかわらず、何とか興収76億円台をあげたことから、一応、成功したと言っていいのだとは思う(それでも、コロナ前の19年公開「紺青の拳」より17億円も興収はダウンしたが)。

2022年のGWは緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も発令されなかったので、本来のスケジュール通り、4月に25作目となる新作劇場版「ハロウィンの花嫁」が公開された。
3年ぶりに行動制限のないGWとなったし、前年には1年遅れとはいえ、通常の時期に新作が公開されたので、前作のように劇場版シリーズの客離れを防ぐための総集編映画を作る必要がなかった。実際、同作はシリーズ最高となる興収97億円台を記録した。

なので劇場版26作目となる4月公開の最新作「黒鉄の魚影」は放っておいても特大ヒットとなるのが確実視されている。
だから、同作にちなんだ内容のテレビシリーズ総集編映画(本作)を公開する必要なんてなかったはずなんだよね。

日本を含む世界各国・地域のコロナ対策を見ると、どんなに感染者が増えても行動制限は取らないという方向になっているから、スタッフ・キャスト間で感染がまん延したりしない限り、公開延期の可能性は低い。
コロナやウクライナ情勢の影響によるサプライチェーンの問題も作画にしろ完パケにしろデジタルデータのやり取りだと思われるのてほとんど関係ない。

今回の新作はメインヒロインの蘭よりも人気はあるし、活躍しているんじゃないかと思われる灰原が中心となる作品のようだが、劇場版のコナンしか見ない人、テレビ・劇場版を含めて何年もコナンから遠ざかっている人だって、灰原を知らない人はほとんどいない。

じゃ、ほとんど金をかけずにそれなりの収入を得られる総集編映画ビジネスで金儲けに走ったのだろうか?確かに総集編映画の前作「緋色の不在証明」は通常の劇場版よりは遥かに低い数字ではあるものの、興収12億円台とヒットと呼べる数字をあげている。
でも、小銭稼ぎしたいなら、前作「ハロウィンの花嫁」の時だってやっていたはずだ。何しろ、安室と警察学校同期の面々の話だからね。安室は赤井と並ぶ劇場版コナンシリーズの稼ぎ頭だしね。

となると、今回の総集編映画のターゲットは新規なんじゃないかと思う。テレビシリーズも劇場版もほとんど見たことない人に見てもらうために、シリーズの重要人物である灰原を新規に知ってもらおうという作戦なのではないかと思う。

何故、そうしたプロモーションを行うのかといえば、それはシリーズ初の興収100億円突破を目指しているからではないかと思う。

ここ最近、テレビアニメの劇場版映画の興収100億円突破が相次いでいる。
2020年公開作品では「鬼滅の刃」。
2021年公開作品では「シン・エヴァンゲリオン」、「呪術廻戦0」。
2022年公開作品では「ONE PIECE FILM RED」が大台を突破している。
22年12月公開の「THE FIRST SLAM DUNK」は現時点では興収67億円台だが、1月から2月の公開予定作品を見てみると、「鬼滅の刃」のイベント上映以外は特大ヒットが期待される作品はなさそうなので、もしかしたら、これも大台を突破するのではないかという気もする。

これらの作品のヒットは特典目当てのリピーターがけん引しているのは事実だが、原作やテレビシリーズ、過去の劇場版のファンだけでは成り立たないと思う。
原作も読んだことがない、テレビシリーズもまともに見たことがない、ましてや、これまでの劇場版なんて1本も見たことがない。
そういう人たちを動員しないと興収100億円突破は無理だと思う。

劇場版コナンシリーズはこれまで3作品が興収90億円を突破しているが、大台に到達した作品は1本もない。再上映しても届かない。テレビアニメの劇場版シリーズとしては最大の成功作であることは間違いないのに、大台突破作品がないのは“名門”としてのプライドが許さない。ここは何がなんでも100億円を記録してやる。そのためには、原作・テレビ・劇場版問わず、これまで全くコナンに接してこなかった人たちを動員させるしかない。そのためのプロモーションとして、新作映画の供給が低い1月上旬に総集編映画を公開しようと判断したのではないかと思う。

しかし、本作を見てみると、総集編映画としてもかなり手抜きと言われても仕方ないレベルの内容だった。

サブタイトルが「灰原哀物語」となっていたから、これまでの灰原メインのエピソードをまとめたものかと思ったが、実際はアバン部分を除くと2013年に全4話で放送された「漆黒の特急」というエピソードをただ再構成しただけの内容だった。要は「鬼滅の刃」1期全26話を5分割して長編作品のような形でテレビ放送した特別編集版というのがあっだが、ほとんどあれと同じなんだよね。まぁ、「鬼滅」の特別編集版にアバンはなかったけれどね。

それから、アバン部分で出てきた場面が再度、本編でも繰り返し出てくるのもウザい。あと、全く読ませる気がないほどの高速で流れるエンドロールも意味不明。
同じシーンの繰り返しとか読ませる気がないエンドロールとか、完全にテレビ屋、特にバラエティ系の連中の発想だよねと思った。

まぁ、前回の総集編映画の時は金曜ロードショーでの放送用に作ったけれど、急遽、劇場公開されることになったみたいなことを言っていたように記憶しているので、もしかしたら、今回も本来はそういう意図だったのだろうか?

ただ、感心したこともあった。
ちゃんと、ミステリーになっているんだよね。

劇場版コナンが腐女子に媚びた人気イケメンキャラを出しておけばいいという路線になったのは前作より18.5億円も興収を伸ばし、初の60億円台突破作品となった(最終的には63.3億円)2016年の「純黒の悪夢」からと言われている。
本作の元となるテレビ版「漆黒の特急」が放送されたのは2013年だから、まだ腐っていなかった時代の作品ということできちんと、本来のミステリー要素をキープできていたってことなのかな?

もし、総集編でなくイチからこの話で今、リメイク版映画を作るとしたら、本作に出てきた安室とか赤井、キッドといった腐女子人気の高いキャラ大集合のオールスター映画みたいにされてしまい、灰原や小五郎の出番は減ってしまうのではないかという気もする。

とりあえず、オープニングの世界観説明パートの担当がコナンでなく灰原になっていたのが面白かった。

そして、本作を見て思った。コナンのヒロインって、工藤が高校生の体だった時の彼女である蘭でもなければ、小学生の体となりコナンと名乗っている現在の同級生である歩美でもなく、灰原なんじゃないかって気がするんだよね。
工藤(コナン)と同じく小学生の姿になったハイティーンという立場でもあり、組織のことを知っているという点でも共通しているしね。


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