キングダム 運命の炎
どの時点からコロナ禍と呼ぶかは議論のわかれるかところだが、アカデミー賞授賞式が行われた2020年2月9日の時点では、世界的に新たなウイルスが蔓延していることは認識されてはいたものの、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」の作品賞受賞が大きな話題となっていたことからまだ、それほど大きな影響はなかったと思われる。
日本で一部の映画館が休業したり、一部作品が公開延期を発表したりし始めたのは2020年2月下旬だったし、米国でコロナの影響で興行収入が落ちたのは3月上旬だから、映画業界的には3月に入るか入らないかくらいの時期からがコロナ禍ということになるのだろうか。
コロナ禍以降、世界の映画興行のシステムは大きく変わってしまった。日本のアニメ映画が韓国や中国で記録的なヒットを記録したり、コンスタントに全米興行収入ランキング上位に顔を見せるようになったのもコロナ禍以降の映画業界の変貌の影響だと思う。インド映画の躍進もそうだと思う。
勿論、背景にあるのはコロナだけではない。欧米作品の過度なポリコレに嫌気がさしている映画ファンが良くも悪くもポリコレに対する配慮が少ない日本のアニメやインド映画を従来のハリウッド製エンタメの代替品として楽しんでいる面はあると思う。
また、ハリウッドのスタジオ各社、特にディズニーが配信に力を入れるようになったことも影響していると思う。
ディズニー作品は配信オンリーの作品も多いし、劇場公開作品もすぐに配信開始されてしまう。そして、配信オンリーの作品と劇場公開作品の見た目はそれほど変わらない。日本映画のように相変わらずソフト化や配信化まで半年もあるのなら、まだ、テレビドラマやテレビアニメの延長版のような作品でもとりあえず、映画館で見ておくかとなるが、1ヵ月とか2ヵ月で配信されるなら別にいいかとなってしまうしね。
「ミラベルと魔法だらけの家」のサントラが欧米のヒットチャートを賑わせたのが、劇場公開直後でなく、1ヵ月後に配信開始されてからというのはそうしたディズニー映画は配信で見るものという意識が定着したことをあらわしていると思う。
そして、日本の映画興行でも変化が起きている。それは、コロナ前以上に洋画が当たらなくなり、邦画も含めた実写映画が当たらなくなったということだ。
コロナ禍(2020年2月下旬以降)になってから公開された実写日本映画で興収50億円を超えたのは、「今日から俺は!!劇場版」(2020)と「キングダム2 遥かなる大地へ」(2022)の2本だけだ。洋画をカウントしても、これに「トップガン マーヴェリック」(2022)と「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」(2022)が加わるだけだ。
今年度(昨年末以降)の日本の興収ランキング上位を見ると、興収100億円超が3本もあるがいずれもアニメーション作品だ(2本が国産、1本は日米合作)。
日本人が韓国以外の海外エンタメに対する興味を失って久しいから、マーベルやDCコミック原作の映画や「アバター」続編が海外ほどヒットしないのは仕方ないにしても、国産テレビドラマの劇場版すら50億円を突破するのが難しいのだがら、いかに日本人が実写映画に興味がないかが分かるかというものだ。
そんなわけで、本作は「キングダム 運命の炎」はコロナ禍になってから公開された実写作品で数少ない50億円を突破した作品の一つである(テレビドラマの劇場版とハリウッド映画を除けば唯一の大台突破)「キングダム2 遥かなる大地へ」の続編であることから、当然のように大台突破が期待されていることは間違いないと思う。
前作同様、話の途中から始まり、話の途中で終わるのに、前作のようにタイトルにシリーズ何本目かを表す数字が入っていないこと、そして、前作のように次回作の特報映像のようなものが最後についていないことを考えると、過去2作を見ていない人にも本作を見てもらい、何とか大台を突破させたいんだろうなという意気込みがあることはよく分かる。ただ、サブタイトルは「運命の炎」となっているが、それほど、“炎”要素はないよねとは思った。
それから、ラース・フォン・トリアー監督が手掛けたテレビドラマ「キングダム エクソダス〈脱出〉」の劇場公開版が同じ7月28日公開となっているのは完成に便乗商法だよね。
そしてふと思った。ネトウヨって何かというと、中国批判するくせに、「キングダム」とか「三国志」といった中国の歴史ものが好きなのはなんなんだ?
そして、「リトル・マーメイド」などこれまで白人が演じてきたキャラクターを黒人が演じるとブーブー文句を言うくせに、日本人俳優が「キングダム」シリーズで中国人を演じることには何も言わないのは何故?嫌いな中国人を日本人が演じるというのはネトウヨ思想からすれば国辱行為なのでは?
それにしても、最近、日本のシリーズもの作品の作り方って実写・アニメ問わず変わったよね。
以前なら、人気キャラや人気俳優・声優か演じるキャラは原作に出番がなくても無理矢理登場させていたのに、最近はそうではないからね。
「鬼滅の刃」の最新シリーズ「刀鍛冶の里編」はメイン4人組のうち、善逸と伊之助の出番がほとんどない作品なのに、原作準拠の展開でアニメ化されたからね。
そして、本作もそうだ。シリーズ1作目「キングダム」ではカッコいい楊端和を演じた長澤まさみが日本アカデミー最優秀助演女優賞候補である優秀助演女優賞受賞者となった。
これまでの日本映画なら原作を無視してでも人気キャラである楊端和を続編に出したはずだ。
ところが、「キングダム2 遥かなる大地へ」は回想シーンに出てきただけ。そして、本作ではきちんとした新撮シーンはあるものの次回作へのブリッジ的なシーンにちらっと登場しただけ。
また、主人公・信役の山﨑賢人だって、本作では前半は出番が少ない。
しかも、後半の合戦シーンに予算を集中させたせいかどうかは知らないが、前半はいかにもセット撮影に見えるようなシーンが多いし、背景も安っぽい合成に見えてしまう。
そして、その後半の合戦シーンも延々と戦っているだけだから正直言って飽きてしまう。
まぁ、コロナの影響が落ち着いてきて中国ロケもできるようになったのか、前作よりは画のしょぼさは全体的に改善されていたとは思う。
そして、宇多田ヒカルの主題歌についても一言触れておこう。
予告編で一部を聞いた時は、最近の宇多田がよくやる汎用型邦楽バラードか…。彼女も単なる邦楽アーティストになってしまったよねと思った。
でも、この曲って、2番になると、クラブ音楽寄りのサウンドになるんだね。要は、“Beautiful World”や“One Last Kiss”といった「エヴァンゲリオン」関連曲のようなサウンドだ。この展開になってからはそんなに悪くはないと思った。
ただ、バラードにしろ、クラブ寄りにしろ、実写版「キングダム」のイメージには合わないよねと思った。好き嫌いはさておき、これまでのシリーズで一番合っていたのは1作目のONE OK ROCKだと思う。コロナ前からの追っかけファンをバカにしたような発言、そして、コロナ禍になってからの自分勝手な発言、さらに、洋楽ロック、しかも、ひと昔前の楽曲のパクリのようなサウンドと色々な要素が重なり、彼等は好きにはなれないけれどね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?