米大統領選の結果に思うこと
開票率100%ではないので厳密には“結果”ではないが、共和党のドナルド・トランプ前大統領が当選確実となったので、便宜上、“結果”が出たとして大統領選挙についてふれたいと思う。
最初の暗殺未遂事件が7月に起きた際、危機一髪の所で命を失わずに済んだという強運の強さを見せつけた。しかも、それだけでなく、銃弾が耳を貫通したのにもかかわらず、すぐに立ち上がりガッツポーズを取ったのだから、この時点で誰もがトランプの復帰当選を確信したと思う。
共和党というだけで、トランプというだけで100%否定する連中には理解できないだろう。米国には日本のような無党派層は少ない気もするが、それでも、大統領選のたびにどちらに入れるか考えるような浮動層は多少はいると思うので、そういう人たちからすれば、次の4年間はパワーを感じるこの人にしようと思ったはずだ。
だから、民主党は党大会直前になって大統領選候補を現職のジョー・バイデンでなく副大統領のカマラ・ハリスに変えたのだろう。
81歳という年齢から来ると思われる言い間違えが多いバイデンに対する信頼は薄れていたが、失言の多いトランプが相手なら何とかなると民主党サイドは余裕を持っていたが、暗殺未遂直後のトランプのガッツポーズを見てこれではいけないと思ったのだろう。
そして、ハリスが民主党の候補になった途端、若者を中心にハリス支持が増えているという報道が相次ぐようになった。
個人的には高齢者じゃないからいい(投票日時点で60歳は若くはないが)、オッサンというか爺さんじゃないからいい、白人じゃないからいいという理由だけで支持している若者も多かったのではないかと思う。
副大統領としての約4年間、特筆するような実績もなかったハリスなんて、バイデンよりも候補者になる資格はないし、そもそも、予備選を戦っていない人が党大会でいきなり候補者になることに納得いかない人だって民主党支持者にも多いはずなので、トランプに差をつけて支持されているみたいなトーンで報道されていることには違和感しかなかった。
まぁ、若者に関しては、セレブを絡めたSNS戦略にあっさりと釣られてしまったという面もあるのではないかとは思う。
日本で言えば、都知事選で再選した小池百合子に次ぐ得票数を稼いだ石丸伸二や衆院選で躍進した国民民主党、思想のベクトルは違うが同じく衆院選で議席を伸ばしたれいわ新選組といった辺りが使った手法だ。
ただ、そんな熱狂は本番までは続かなかった。
気が付けば、拮抗というスタンスの報道に変わっていった。
個人的には多少のタイムラグはテイラー・スウィフトのハリス支持表明がハリス失速のきっかけを与えたのではないかと思う。
過去の大統領選でも、ミュージシャンやハリウッド・スターなどのいわゆるセレブは民主党支持の傾向が強かった。
ビル・クリントンの選挙戦の際にはフリートウッド・マックの“ドント・ストップ”が事実上の公式テーマ曲となったし、バラク・オバマの時にはブルース・スプリングスティーンが彼のために書き下ろしたと言っても過言ではない新曲を発表している。
また、共和党批判を目的とする作品では息子ブッシュ政権時代にマイケル・ムーア監督が手掛けた「華氏911」はドキュメンタリーとしては異例の大ヒット作品となったし、同じく息子ブッシュを批判するグリーン・デイのコンセプト・アルバム『アメリカン・イディオット』はセールス面でも批評面でも成功を収めた。
少なくとも2010年代前半までは民主党礼賛、共和党批判の作品もエンタメ、アートとして保守層や無党派層、浮動層にも受け入れられていた。
その流れが変わったのは8年前の大統領選だ。これでトランプが当選して以降、欧米のエンタメ界は狂ったように過度なポリコレを推し進めるようになった。
息子ブッシュですらネタとして笑うことができたリベラル・左派の欧米芸能人が何故、トランプに対してここまで拒否反応を示したのかはよく分からないが、元々、政治や法律の世界の人間ではないからエリート界隈の話が通じない、共和党の大統領でもロナルド・レーガンのように俳優出身でないから批判しやすいなどの理由もあったのだろう。まぁ、移民やその子どもが多いミュージシャンや俳優、映画監督などからすると、移民排斥を訴えるトランプが気に入らないというのもあったのだろう。
ただ、トランプが嫌いだから、トランプのいないパラレル・ワールド的な理想郷を映画や音楽の世界で作り上げようとしたせいで、保守層や無党派層、浮動層のエンタメ離れが加速していったのも事実だ。
最初のうちは何となく我慢していたが、2020〜21年のコロナ禍による新作の供給不足で新しい映画を見ない、音楽を聞かない生活が続いたこともエンタメ離れを加速を助長したのだろう。
そして、コロナ禍の間にバイデンが大統領になり、民主党政権に戻ったが、欧米のセレブは過度なポリコレをさらに推し進めていった。
“あんたらの敵はいなくなったんだから、いい加減、元に戻せよ”と多くの映画ファン、音楽ファンは思ったが、相変わらず、欧米エンタメ界は熱心にトランプ的なものの批判を続けていった。バイデンではダメだ。また、トランプ政権に戻るという焦りがあったのかな?
そして、黒人や女性、LGBTQ、障害者などのマイノリティのアーティストや俳優が受賞しなくてはいけない、こうしたマイノリティをテーマにした作品が受賞しなくてはいけないという空気ができ上がってしまった。
この8年間で過大評価と言ってもいいくらい絶賛されたアーティストの代表格がビヨンセだ。グラミー賞でビヨンセがノミネートされた部門を他のアーティスト、特に白人アーティストが受賞すると謝らなくてはいけない雰囲気ができてしまった。
こういう空気に嫌気がさしている米国人も多いのではないだろうか。
そのビヨンセは今回、ハリス支持に回ったし、彼女に自分の楽曲をテーマ曲として使うことも許可した。
また、チャーリーXCXは最新アルバムのタイトルでもある『ブラット』に絡めてハリスを“ブラット”と呼んだ。これは、本来は“悪ガキ”といういい意味ではない言葉をクールな存在という意味で使ったとのこと。80年代後半、マイケル・ジャクソンの“BAD”がワルという意味ではなくクールという意味で使われたが、それの2020年代版といったところだろうか。
この2人以外にもアリアナ・グランデやレディー・ガガ、ビリー・アイリッシュなど多くのアーティストや俳優がハリス支持を表明した。中には共和党員なのに支持したアーノルド・シュワルツェネッガーのような人もいた。
この8年間、どんなに傑作を撮ってもクリント・イーストウッド監督作品は米映画賞レースからは無視状態になっているのを見ると、ハリウッドに身を置いている以上、共和党員や支持者もトランプ批判しなくてはならないという同調圧力にやられているんだなというのを実感する。
話を戻すが、テイラーはバイデンが候補者だった時は今回の大統領選に関してのスタンスは明らかにしていなかった。ハリスがかわりの候補者になってもすぐには支持を表明しなかった。過去の発言を見れば民主党支持であることは明白だが、スウィフトノミクスと呼ばれる経済効果が自分にはあり、そうした効果は民主党支持者だけでなく、共和党支持者や無党派層、浮動層がお客さんになってくれるから成り立つものだから、発言には慎重になっていたのだろう。
しかし、トランプがテイラーが自分の支持者であると思わせるフェイク画像を拡散させたことで事態は一変する。
恐らく、テイラーはこれにブチ切れてハリス支持を正式に表明したのだろう。
ただ、この作戦は失敗してしまった。
テイラーの最新シングルは伸び悩むこととなったし、テイラーを含むセレブのハリス支持表明に対して嫌気を感じる人も増えることとなった。
レディー・ガガやビリー・アイリッシュのような奇抜なことをするイメージのあるアーティストやグリーン・デイやブルース・スプリングスティーンのようなロック系アーティストがトランプ批判することには驚きはないが、テイラーのような、いわゆる国民的スターがそれをやると嫌悪感を抱く人が多いのも事実だ。
国民的スター、国民的アイドルと呼ばれる人は思想や属性(人種、性別など)に関係なく支持されているわけだから、そうした人が特定の候補や政党に肩入れするのを面白くないと思う人は当然いる。
それにテイラーは元々、保守層にファンの多いジャンルであるカントリーのアーティストだった。
カントリーと言えば、最近の全米シングル・チャート(Billboard HOT 100)におけるカントリーの強さを見ていると、とてもではないが、若者がハリスを支持しているようには見えないんだよね…。
今回の選挙結果を見て、自分のその直感は当たっていたということか。
今年の全米シングル・チャートを振り返ってみるとまだ1ヵ月半以上残っているのに、現時点で26週(1年の半分)はカントリー・ソングが総合チャートで首位に立っているからね。
この中には、ビヨンセやシャブージーといった黒人アーティストによるカントリー・ソング、白人だけれど本来はラップという黒人音楽のジャンルにカテゴライズされるアーティストであるポスト・マローン の楽曲も含まれているし、さらにはブレンダ・リーのクリスマス・ソングのリバイバル・ヒットもカウントされている。
しかし、カントリーはカントリーだ。
よく、カントリーは米国版演歌と言われたりもする。この言い回しには賛成する部分とできない部分がある。
共通点は保守層にファンが多い、ビジュアル的に田舎っぽい(まぁ、カントリーって言うくらいだし。演歌の着物か男ならスーツ、女ならドレス。カントリーのテンガロンハットなんてのがそうだ)、ハード・ロックばりのギター・ソロが入る曲が多いなんてところだろうか。
でも、両者には決定的な違いがある。それは、カントリーは若者も聞いているということだ。
そして、今のチャートはストリーミングの影響力が大きく、ストリーミング視聴のコア層は若者であるってことを考えると、地方に限らず都市部でも若者はカントリーを聞いているのではないかと推察される。Z世代って言われるほど民主寄りではないんだと思う。
ポリコレ描写が過度になったアメコミ原作映画が一部を除いて興行成績が期待外れになっているのもZ世代はそれほど民主党支持ではないことを表している現象だと思う。
まぁ、民主党の政治家や支持者にはエリートが多いから、何かと学歴や職歴を自慢し、差別や環境問題に対する意識を持たないのは学歴がないからだとか、底辺の仕事をしているからだみたいな態度を示すから、そりゃ、嫌われるよねって思う。
たとえ、どんなデタラメなことを言っていても、常日頃からマックを食べているオッサンの方が親近感あるしね。歴代の大統領がハンバーガーとかホットドッグを食べているニュース映像って、共和党の大統領だろうと、民主党の大統領だろうと、試しに下々の者が食べているものを口にしてみた感が強く、無理して庶民派アピールしているって感じで、明らかにほとんど食べたことないのがバレバレだったが、トランプのオッサンには不自然さがなかったからね。というか、その年でファストフード生活で元気なんだということの方が不自然だ。
これは、米国だけでなく日本にも、というか、ほぼ、全ての民主的とされる選挙が実施されている全ての国や地域に言えることなんだけれど、左翼・リベラル政党やその支持者が嫌われるのって、エリート臭を全開にし、自分たちの思想に100%賛同しない者はバカと決めつけるからなんだよね。
どんなに共和党や自民党がクソであっても少しは評価できることだってあるのに、全否定しろということを強要するから左派は嫌われるんだよ。
第二次安倍政権はクソだったけれど、安倍のマリオコスプレは良い政策だったしね。