シチリアを征服したクマ王国の物語
ここ数年、アート系海外アニメーション映画がコンスタントに日本でも劇場公開されるようになった。ここでいう海外アニメーションというのは、ディズニー・ピクサーやイルミネーション、ドリームワークスなどハリウッド大手の配給網で公開される米国作品ではなく、欧州など米国以外の国や地域で制作された作品のことを指す。
このシーンをリードしているのはアイルランドのスタジオ、カートゥーン・サルーンであることは間違いない。何しろ、これまでに発表された長編4作品全てがアカデミー長編アニメーション賞にノミネートされているからだ。
そうしたサルーン作品やこれらの作品と欧米の賞レースで競い合った作品が相次いで公開されるようになり、それに伴って、欧米の賞レースを賑わせないような台湾作品まで公開される用になった。
また、厳密にはアート系ではないものの、「羅小黒戦記」や「白蛇:縁起」といった中国作品が限定公開で話題になった後に、改めて拡大公開されたりしたのも、この海外アニメーションに対する注目度が増しているおかげだと思う。
本作「シチリアを征服したクマ王国の物語 」は原作が多少は知られているとはいえ、製作年度は2019年とちょっと経っているし、アカデミー長編アニメーション賞とかアニー賞長編インディペンデント作品賞にノミネートされているわけでもない。
そうした作品が公開されるというのは、大規模なヒット作品にはならなくても、ミニシアター規模ではペイできるとの採算があるからだと思う。
でも、本作を実際に見た印象としては、これはミニシアター向け映画ではないねというのが一番大きい。米国産でない海外アニメーションだからミニシアター公開になっているけれど、児童文学を忠実に映画化したファミリー向け作品って感じだった。
ミニシアター公開だから、観客は中高年ばかりだけれど、本当だったら、イオンシネマあたりのシネコンでひっそりと家族連れ向けに上映した方が良かったんじゃないかなって気がする。
文明社会に対する批判とか、環境保護のメッセージとかは含まれているけれど、その程度の主張を込めた作品なら山程あるし、アニメーション技術も特筆するようなものでもないから、そりゃ、アカデミー賞にもアニー賞にもノミネートされないよねって感じかな。
まぁ、人間の軍隊がペチャンコにされたりとか残酷描写は描かれていたりもするけれど、「鬼滅の刃」に比べればたいしたことないし、日本の観客からすれば、ファミリー向けにしか思えないかもしれない。
ピクサーとかドリームワークス、イルミネーションの方が余程、大人向きに感じるのでは?
あと、洞窟で出会ったクマが少女に語った内容というのは、別に少女と行動をともにするおじさんには明かさなくてもいいけれど、観客には明かすべきだと思うし、このクマが何者なのかもはっきりと提示した方がいいと思うんだよね。駄作とは思わないけれど、テンポもそんなに良くはないしね。そこまでオススメはできないかなって思う。
ミニシアターで海外アニメーションが密かなブームになっているから、便乗して日本公開を決めたって感じもする。
ところで、自分は今回、字幕版で鑑賞したが、吹替版ボイスキャストに伊藤沙莉を起用した理由がよく分かった。言語ボイスキャストの声質、伊藤沙莉そのものじゃん!まるで、彼女が外国語を話しているようだったしね。