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ふれる。

本作は監督:長井龍雪、脚本:岡田麿里、キャラクターデザイン:田中将賀の組み合わせによるチーム、超平和バスターズの新作だ。

この3人が揃ってメインで手掛けた過去3作品、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」、「心が叫びたがってるんだ。」、「空の青さを知る人よ」は秩父を舞台としているが、本作は主人公グループの子ども時代は場所を明示しない離島、20歳くらいになった現在のシーンは高田馬場の辺りが舞台となっている。

「あの花」(最近、この略称は戦時中の日本にタイムスリップした女子生徒を主人公にした女子向けなろう系邦画のものになりつつあるが…)の劇場版は興収10億円超、「ここさけ」は11億円超、「空の青さ〜(略称あったっけ?)」が6億円と比べると現時点で1億円の本作は大コケと言っていいと思う。その要因の一つに舞台が秩父でないことは確実にあると思う。

もっとも、「空の青さ〜」も「あの花」や「ここさけ」に比べると大幅ダウンしているので、同作から絡んできた配給:東宝、プロデュース:川村元気という資本主義の塊のような座組が、本来の超平和バスターズの魅力を半減していると思っている人は前作の時点でかなりいたのではないかと推察される。

終盤にはウルっと来る場面もあるので、クソ映画とか駄作と言い切るのは難しいが、正直なところ、“何だコレ?”くらいは言いたくなるほどの不出来だ。

ネタバレになってしまうが、主人公グループが会話をしなくてもお互いの心の中を読み取れる装置として機能していた謎の生物“ふれる”が主人公グループに与えた能力の設定が雑過ぎる。
怒りとか嫉妬につながるようなネガティブな思考は伝えないから、結果としてすれ違いを生むことになるっていうのは何だそれって思う。

主人公グループの1人である主役扱いのキャラは家庭環境の影響か、話すのが苦手で自分をいじめたり批判したりする者に対して言葉でなく暴力で“言い返す”ようなタイプの人間だ。
それが、自分をいじめたり批判したりする側だった2人と仲良くなれたのはこの“濾過装置”によってお互いのネガティブな思考が排除されたからだと解釈できるようなネタ明かしがされるが、“だから?”という感想しか抱けない。矛盾だらけなんだよね。

ドロドロした感情を抱いた登場人物がぶつかり合うのは岡田麿里脚本のおなじみの展開ではあるが、過去作品はきちんと納得のいく展開だったが本作はどう考えても納得がいかない。やっぱり、川村元気のような陽キャ寄りの者の意見が入ると、本来の陰キャ思想とは異なるものになってしまうから、辻褄が合わなくなってしまうのではないかと思う。

その辻褄の合わなさを最も象徴しているのが3人組と絡むストーカー被害にあっている清純そうな服飾系学生と遊び人っぽく見える友人の女子2人組だ。

見た目や語り口調と実際の性格が逆というのは別に問題ない。「あの花」でギャルっぽい見た目で、あなると呼ばれていた女子が実は平凡な娘だったという描かれ方はされていたしね。

でも、本作の清純そうな服飾系学生のキャラ設定は納得がいかない。
いくら、自分のバッグを奪ったひったくり犯からバッグを取り戻してくれたヒーローとはいえ、ストーカーに怯えているはずの女子が、自分を助けてくれた男子(主役)にアプローチし、一緒に生活しようなんて言うだろうか?

しかも、この主役に恋愛感情を抱くというのはとてもではないがありえない。
さらに、それだけではなくこの主役とは別の男子に恋愛感情を抱かれてその男子とキスまでしてしまうのだから意味不明だ。

本当にストーカーに怯えているのか?作中、“ビ⚫︎チ”という台詞が出てくるが、本当、この女子はその通りだと思う。とてもではないがストーカーの被害者ではない。ストーカーの正体は誰もがすぐに気付くと思うが、このストーカーも彼女の誘惑=ハニトラに引っかかってしまった“被害者”に思えて仕方ない。

友人の遊び人風女子は最初、ビ⚫︎チが興味を持った主役をゲイだと思いこんでいたので、彼やその友人たちと一緒に住んでも安心できるといった趣旨のことを言っていたが、この遊び人風も結局、主役の同性愛の相手と思っていた男子と恋愛関係になっているのだからおかしな話だ。

友人関係にしろ、恋愛関係にしろ、ドロドロしたものを盛り込んでおけば、岡田麿里信者は喜ぶだろうみたいな安易な作劇に思えてしまう。

あと、水瀬いのりをあの程度の役で使うんだ…。無駄使いだね。

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